植物の受精効率を高める物質を発見した、と名古屋大学WPIトランスフォーマティブ生命分子研究所の東山哲也(ひがしやま てつや)教授らの研究グループが、8日付の米科学誌に発表した。この物質は糖がいくつも結合した糖鎖で「アモール」と命名された。受精効率を高める研究を大きく前進させ、農作物など植物生産分野でのさまざまな応用に結びつくと期待される。

図 植物の受精過程(名古屋大学提供)
A:花粉が、雌しべの先端に受粉し、伸長した花粉管が雌しべ内を通過し、胚珠に向かう
B: 花粉管は胚珠に含まれる助細胞から分泌される誘引物質により誘引され受精に至るが、そのためには花粉管が誘引物質に応答できる能力を獲得することが必要。今回その物質が「アモール」と判明した

花を咲かせる被子植物では、雄しべで作られた花粉が雌しべの先端に到達(受粉)すると、花粉は花粉管と呼ばれる細長い細胞を伸ばす。花粉管が、雌しべの奥にあり卵細胞などを包んでいる胚珠にたどりつくと花粉管から放出される精細胞が卵細胞など2つの細胞と結合して受精(重複受精)が起きる。これまでの研究により、雌しべには花粉管を受精可能な状態にする物質が存在すると考えられていたが詳しいことは分かっていなかった。

東山教授らの研究グループは、「トレニア」という植物を用いて、雌しべには、花粉管に受精能力を持たせる特有な糖鎖があることを見つけ、この糖鎖の末端に2つの糖が結合している特異な構造を解明した。また末端の2つの糖を化学合成して実験したところ、2糖だけでも花粉管に受精能力を持たせる働きがあることが分かったという。

被子植物に受精現象があることや受精の基本的なメカニズムは1800年代後半にフランスやロシアの研究者らにより報告、解明された。その後も多くの研究者が卵細胞から花粉管を誘導する誘因物質があると考え研究を続けてきた。2001年に当時東京大学大学院助手だった東山教授らは、2種類の誘因物質を突き止めた。東山教授はさらに、花粉管が2つの誘因物質に反応して受精可能な状態になるためには別の物質が存在するとみて研究を続けて糖鎖「アモール」発見に成功した。

この研究は科学技術振興機構(JST)「戦略的創造研究推進事業」(ERATO)の一環として行われた。

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