理化学研究所多細胞システム形成研究センター(神戸市)と兵庫医科大学の研究グループが、脊椎動物の脳の起源はサメの登場より古い5億年以上前までさかのぼることが分かった、と発表した。脳の進化を解明する興味深い研究成果で、論文は15日付の英科学誌ネイチャー電子版に掲載された。

写真.ヌタウナギ(奥)とヤツメウナギ(手前)(理化学研究所提供)

図.脊椎動物における脳の進化のシナリオ(理化学研究所提供)

脊椎動物は、人類のように顎(あご)を持つ「顎口(がっこう)類」と顎を持たない「円口(えんこう)類」とに大別され、5億年以上前に分岐し、顎口類の脳はこの分岐後形成され、4~5億年前にサメが登場したころが最古と考えられていた。しかし、脳は柔らかく骨や歯などの化石として残らないため、脳の進化の過程はよく分かっていなかった。

これまでの研究では、円口類の一種ヤツメウナギには、大脳の一部の発生の基になる「内側(ないそく)基底核隆起」がなく、小脳になる「菱脳唇(りょうのうしん)」も未発達だったことから、脳は、円口類が分岐して以降、顎口類で発達し、形成されたのではないかと考えられていた。またヤツメウナギの内側基底核隆起や菱脳唇が進化のある過程で退化した可能性も残り、詳しいことは未解明だった。

研究グループは今回、同じ円口類でありながらヤツメウナギと別の系統で深海に生息するヌタウナギの脳を詳しく調べた。ヌタウナギは深海に生息して入手が難しいため人工養殖(2007年に成功)し、胚の遺伝子を解析した。その結果、「内側基底核隆起」「菱脳唇」の二つの領域とも存在することを確認した。ヤツメウナギについても同様手法で解析し直したところ、これまでの見方を覆して2領域とも存在することが判明。円口類でも顎口類同様の脳の基本構造を持つことが分かった、という。

これらのことから研究グループは、顎口類と円口類が分岐する5億年以上前の脊椎動物の進化の初期段階で既に脳の基本的な枠組みができていた、と結論付けた。

研究グループは今後、人間の大脳新皮質の起源はどのような進化を経て「知性」が生まれたのか、などについて研究を進める、という。

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