テヅルモヅル研究の難しさ
―テヅルモヅルを集めて、その形を観察して分類していく、というのが岡西先生の研究の流れなんですね。研究において、何か課題などはありますか。
大学院生のころには博物館で研究をしていたのですが、この場合、主に標本を利用してテヅルモヅルの形を見ていきます。しかしこれでは、死んだ生きものの形しか見ていないことになりますよね。私は、彼らの“生きざま”……動きや行動、生活様式なども分類の指標になるのではと考えています。たとえば、砂の上にいるのか、岩の下にいるのかといった情報は、その生物がどう進化してきたかということにも関係してきます。
―なるほど。実際に飼って観察してみるということはされているんでしょうか。
テヅルモヅルを飼育するのは、水温の関係で非常に難しいです。死ぬとバラバラになってしまうんですよね。上手く飼っている方もいるらしいのですが……。テヅルモヅルの腕は不等分岐といって腕が不規則に分岐していたり、主軸があってそこから分かれていたり、さまざまな分岐のパターンがあります。もし、生きているモヅルを見ることができれば、ものに絡む腕、プランクトンをつかむ腕など、それぞれの腕の役割がわかるのではと考えています。標本からでもある程度は判断できるのですが、やはり生きているものを見るのがわかりやすい。
―形や生態から判断するだけでなく、DNA解析などの手法も用いることもあるんですか。
もちろん行っています。テヅルモヅルのうち85~6種はDNA解析をしていますね。DNA解析では主に、呼吸やタンパク質合成にかかわる遺伝子を見ています。この遺伝子はどの生きものも持っているものなので、ほかの生物と比較しやすいというメリットがあります。
テヅルモヅル研究者の野望とは
―岡西先生はクラウドファンディングで「キヌガサモヅル」の分類に関する研究資金を集められていましたよね。その後、何か新しい発見はありましたか。
あのプロジェクトでは、キヌガサモヅルが本当に1種であるのかどうかを調べました。私は、色や形の違いからキヌガサモヅルは2種以上に分けられるのではと予想していましたが、当時はキヌガサモヅルにしか分類できなかったんです。研究の結果、やはりそれ以上の種がいるということがわかりました。
今回ははじめから形が違うと思っていたので、DNA解析によって種が異なるということを明らかにできました。しかし最近ではとりあえずたくさん採ってきて、まずDNA解析をしてみるという研究もあります。ただ、そういった研究のなかには生物の形が示されていないものもあり、形の違いも検証してきちんと名前を整理すればよいのに……と思ってしまうことがあります。とにかく私は「分類したい」という気持ちをモチベーションに研究を行っているので、形の特徴も、飼ってみたときの特徴も、DNA解析の結果も、すべてを分類に持ち込めればと考えています。
―研究者としての人生を歩んでいくにあたって、夢や目標はありますか。
あまり考えたことはなかったですが……クモヒトデ全体の系統分類はなんとかしてやりたいと思っています。現在は、オーストラリアのチームとも競争しているのですが、日本は生きものが多いので我々にできることはたくさんあります。クモヒトデはあまり知られていない生きものですが、生物量も多く、狭いところに生息できるので、海の環境を考えるうえでとても重要な生きもののはずです。
海の生きものは、ほかの生物に比べて飼育しにくく研究が進んでいません。私の役割は、まずクモヒトデの系統分類をして、メジャーにすること。さまざまな研究に用いられる「モデル生物」と呼ばれるもののひとつにまで持っていきたいという野望があります。これからも研究を進めて、クモヒトデの行動や生態に関する知見を積み重ねていきたいですね。