「Typekit」に追加されたモリサワ(タイプバンク)の日本語フォント一覧。くわしくはこちらを参照してほしい。 |
クリエイティブに関わる人になくてはならない企業の二大巨頭といえば、ソフトウェアのアドビとフォントのモリサワ。クリエイターなら誰もが知るこの二社の提携が、今年10月に行われたクリエイター向けカンファレンス「Adobe MAX」にて発表された。
その発表は、アドビが「Adobe Creative Cloud」の中で提供しているフォントライブラリ「Adobe Typekit」に、モリサワ(およびグループ会社のタイプバンク)の提供フォント(20種)が追加されるというもの。多くのクリエイターにとって"高嶺の花"であったモリサワフォントをCreative Cloudの利用料だけで利用できるとあって、発表直後から大きな話題になった。
そこで今回は、アドビ システムズ 代表取締役社長 佐分利(さぶり)ユージン氏と、モリサワ代表取締役社長 森澤彰彦氏に、今回のモリサワ書体追加のねらいについてお話をうかがった。
――アドビも自社でフォント開発をしていますが、なぜ今このタイミングでフォントベンダー最大手のモリサワと提携を?
佐分利氏:
あまり知られていないかもしれませんが、モリサワとアドビはDTP創生期の1987年に森澤相談役と弊社創業者が技術提携して以来、28年におよぶ協業の歴史があります。
ですので、今回はパートナーシップの一環として、お客様の要望に共同で応えたという意識が強いですね。
森澤氏:
社内の名刺を集めたらおそらく軽く1000枚以上、アドビさんの名刺が出てくるのではないかと思います(笑)。それくらい、密にやりとりをさせていただいております。
モリサワという会社は「フォントの会社」と思っていらっしゃる方も多いと思いますが、もともとは写真植字機(写植機)を作って売っていた機械メーカーなんです。それが技術の進化によりコンピューター化されていったことにより、PCなどに搭載される「フォント」自体が今はメインとなった、という流れがあります。
フォントを使ってもらうためにパソコンやプリンター、アドビさんのソフトなどはもちろんですが、これらをあわせて販売していくことで、はじめてフォントが生きてくるということなんです。
――和文書体の提供に関して、日本国内でなくグローバル向けの発表を行うAdobe MAXでお披露目したのはなぜですか?
佐分利氏:
「Typekit」でには約1,000書体を提供していますが、大半が欧文フォントで日本語のフォントはアドビが独自開発した14書体に限られていました。日本でのオリンピック開催を前に、日本のマーケットへ進出を考える海外企業の増加も見込まれています。今後さらにアドビ製品のグローバル化を進めていくためには、日本語フォントの強化が必須となるでしょう。その点を見据えて、今回の提携はAdobe MAXでの発表となりました。
この発表は随分前から内部では検討されていた案件で、社内での評価も大変高い取り組みでした。モリサワさんにとっても、Creative Cloudのユーザーが追加費用なしで高品質な日本語フォントを使用可能になることで、Webや映像など、印刷やDTP以外のメディアでの利用が増えるため、お互いに大きなメリットがあると考えています。
――提供数は20書体ということですが、数多くのモリサワ書体から、これらのフォントを選んだ理由は?
森澤氏:
アドビさんから「こういうカテゴリの書体が欲しい」というリクエストをもらって、それに併せて提案をしました。選定にあたっては、リュウミンや太ミンなどトラディショナルなものだけではなく、メディアの多様化に伴いさまざまな使い方ができるデザイン書体なども含めています。
――ウェイトがフルでそろってないので「仕事でつかう」デザイナーなどにとっては物足りないとは思うのですが、ウェイトをそろえて用意しなかったのはなぜでしょうか?
森澤氏:
「提供数は全部で20書体」というのがまず前提にあったからです。例えば「新ゴ」だと(ファミリーだけで7~8種類もあるので)、それだけで提供上限に達してしまうんです。
――なるほど、そんな理由があったのですね。「使いやすさ、見やすさ」にも配慮したUDフォント(ユニバーサルデザインフォント)などもラインナップに含まれていますが、フォントの選定基準が何か別にあったのでしょうか?
森澤氏:
さまざまなメディアに向けてフォントのバリエーションを増やしたいというのもアドビさん側の要望のひとつだったので、ファミリーにとらわれず、バラエティー豊かなフォントを用意したという流れです。
――ピックアップされたフォントの中でウェイトが「L」「M」中心となっているのは、やはり理由があるのでしょうか。
森澤氏:
以前より弊社やアドビさんのフォントを使ってくださっているDTP・デザイン業界の方々だけでなく、映像やWeb、電子書籍など、その他のジャンルでの展開を想定したためです。多様化するメディアの中で、汎用性が広いものを基準に選びました。BやHなど見た目が太いものは、どうしても用途が限られますので。
――今後この2社で取り組みたい未来のビジョンについて、お聞かせいただけますか。あるいは、進行中のプロジェクトなどございましたら、そのヒントだけでも…。
佐分利氏:
それは秘密です(笑)
森澤氏:
そうですね(笑)
佐分利氏:
冗談はさておき、今回の提携はこれまでの28年間のパートナーシップにおけるひとつの進化であり、これからもその強力なタッグを深めていけたらと思っていますので、ぜひご期待いただければと思います。
――最後に、おふたりの「一番好きなフォント」を教えてください。
佐分利氏:
最近だと、やはりUD(ユニバーサルデザイン)系フォントですね。モダンデザインですし、欧文フォントでもこういったデザインが人気です。
森澤氏:
僕はやっぱり、リュウミンですね。トラディショナルでありながら繊細で美しい書体だと思います。