さまざまなモノをインターネットにつなげることで情報のやりとりと新たな価値の創造が可能になるといわれているIoT(Internet of Things:モノのインターネット)。その考え方をデジタル化が進む企業のマーケティングに当てはめると、どのような変革がもたらされるのだろうか? IoT環境の構築を支援するマイクロサーバー「OpenBlocks IoT Family」シリーズを開発・販売する、ぷらっとホーム 代表取締役社長 鈴木友康氏に、幕張メッセで開催された「Japan IT Week 2015」の会場でお話を伺った。

“小さい”技術がコンピューティングの可能性を拡げる

本題の前に、前提としてIoT環境においてマイクロサーバーがどのような役割を果たしているのかについて鈴木氏に聞いた。同氏によると、マイクロサーバーは工場や倉庫、店舗などモニタリングしている場所に散りばめられた複数のセンサーが集めたデータをサーバーに保存する前に、集約・整理することができるゲートウェイの役割を果たす。センサーがひとつひとつ通信機能を持ちサーバーと通信するよりも高い効率と低い通信負荷の環境を構築することができ、またセンサーの低コスト化も可能だ。

ぷらっとホーム株式会社 代表取締役社長の鈴木友康氏

同社はIoTが話題になる前の2000年に第1号機を発売し、以来9世代にわたり累計で約10万台近くを販売している。10月には全製品がマルチクラウド接続に対応したほか、Beaconによる位置情報管理システムの構築を想定した「OpenBlocks IoT BX0」を発表した。

「超小型の機器だが、サーバーとしてしっかり機能することが特長だ。これにより、大型のサーバーが置けない環境にも設置が可能で、データ収集・解析のシーンを拡げることができる。インフラに導入しても安定的に運用できる信頼性の高さ、オープンソースを活用したプログラム構築ができる点、柔軟にプログラムの更新ができるためセキュリティの堅牢性を確保できる点なども特長だ」と鈴木氏は語る。

マイクロサーバー「OpenBlocks IoT Family」シリーズ

特に、小型であるということはIoTの環境を構築する上において重要な要素だ。従来の環境にセンサーによるモニタリングを導入しようとした場合、大型のサーバーでは設置できるスペースがなく、大容量の電源を必要とするためコストも掛かる。

鈴木氏は、「小さいことで、今までコンピュータが入り込めなかった世界にコンピューティングが入っていける。これまで手に入れられなかったビッグデータを入手することで世の中がすみずみまでわかり、企業の事業推進やマーケティングが大きく変わる」と語り、“世の中を知る”、“顧客のニーズや課題を知る”ということをミッションにしている企業のマーケティング活動によって、簡単にIoT環境を構築してこれまで知りえなかった真実をデータから知ることで、企業活動が大きく変わっていくことに期待を寄せた。

「IoTとは結局のところ、見守ったり“見える化”したりするということ。課題を解決して価値を提供したいというマーケティング活動にとって重要な“見える化”を実現するためには、大掛かりな仕組みを入れずに安く手軽に安全にIoT環境を導入できることが重要ではないか。こうしたインフラの導入は、従来はSIerに高いコストを支払って全社的なシステムとして構築するほどの大きな事業になったが、マイクロサーバーと安価なセンサーを組み合わせれば、部署単位で導入してテストマーケティングを実施することも可能だ」(鈴木氏)。

IoTによって感覚値からデータドリブンへとマーケティングを変貌させる

鈴木氏は、センサーとマイクロサーバーによるIoT環境の構築事例として、メーカー企業の生産ラインの管理、業務用機械のモニタリング、物流倉庫における荷物管理などを挙げている。そして、最近導入が進んでいるのが商業施設や介護施設、医療機関や学校などでBeaconと連動した位置情報管理システムの構築事例だという。また珍しいところでは、災害復旧工事が行われている原子力発電所の放射線モニタリングポストにも同社のマイクロサーバーが導入されているとのこと。

これまでIT化が難しかった環境や非IT産業に導入が拡大しているのが印象的で、いずれの場合もこれまで見えなかったデータを“見える化”したり、収集したデータをリアルタイムに解析したり他のデータと組み合わせることで、環境の変化を即座に把握したりするといった狙いが見えてくる。

こうした導入事例について、鈴木氏は「これまでは、“わかる”ためのコストが膨大だった。それが安くなることで、わかることが増える。良いことも悪いこともわかることで、次にどのようなアクションが必要かということがわかるようになる」と語る。

これまで数値化することができなかった環境をIoTによってモニタリングすることによって、データドリブンの加速、データ解析の質向上が期待できる。もちろん、そこには見たくないデータも含まれるかもしれない。しかし、IoTは目を逸らすことができない“真実”をデータという形で目の前に提示する。課題が数値という形で見えることで、これまで勘と経験値に頼っていたマーケティングを変革させ、“次に何をすべきか”という問いに対するヒントが手に入るのだ。

これまで見えなかったものを見ることで、新たなマーケティングのヒントが生まれる

IoTがもたらすマーケティングの新世界、その実現に向けた課題とは

それでは、IoTによって企業のマーケティング活動はどのように変革していくのか? 変革を実現するために、企業にはどのようなアクションが求められるのか。鈴木氏は、大手コンビニチェーンであるセブン・イレブンを例に挙げて次のように語っている。

「セブン・イレブンは小さいスペースで収益を最大化させるために、リアルタイムにモノ(商品)の動きを把握してそれに応じたアクションプランを作り出す環境、タイムリーに売れる商品を店頭に並べていくという環境を可能にする変革を生み出した。それにはPOSシステム(レジによる在庫・売れ行き管理)が大きく貢献したのだが、重要なのはセブン・イレブンがPOSシステムをどのように活用するかを考えたことだ」(鈴木氏)

つまり、セブン・イレブンはPOSという“道具”に任せるだけでなく、POSが生み出すデータからアクションプランを構築するプロセスまでを一気通貫で企画・設計したことで、マーケティング活動を変革させることに成功したのだ。鈴木氏は「これはIoTにも通じるものがある」と語り、重要なのはIoTの環境を構築することではなく、それを活用してどのようなマーケティング・エコシステムを構築することだという認識を示した。

IoT環境の導入によって、これまでPOSだけでは見えなかった人の動き、モノの動きが見えてくる。しかし重要なのはそうしたデータを収集する“道具”ではなく、そこから生まれたデータを活用して企業の事業にインパクトをもたらすためのプロセスを考えること。マーケティングの本質は、データを知ることではない。そこに潜む課題を見つけ出し、その課題に対する答えを考えていくことなのである。

「重要なのはIoTそのものではなく、IoT環境が生み出したアウトプットに企業がどうスピーディに対応するかということ。これを理解して革命的なマーケティングを実現する企業は、今後必ず現れる。IoTの創成期である今は、どの企業にもチャンスがある状況であり、マーケティングは今後もっと面白くなってくはずだ」(鈴木氏)