日本オラクルは「POCO(The Power of Cloud by Oracle)」というコンセプトを掲げ、クラウド事業への注力を進めている。その柱の1つとなるのが、デジタル・マーケターの業務に特化したSaaS「Oracle Marketing Cloudは」である。本稿は、前編・中編に続いて、日本オラクルのマーケティングクラウド統括本部長に就任したトニー・ネメルカ氏に日本オラクルのデジタルマーケティング戦略について尋ねるなか、マーケティング・テクノロジー導入のアプローチやパートナーとの関係構築について聞いた。

日本オラクル マーケティングクラウド統括本部長 トニー・ネメルカ氏

マーケティングテクノロジーは「Start Small」が鉄則

まず、デジタルマーケティング分野のソリューションが非常に多いことを踏まえ、マーケターがどこから新しい技術を取り入れるのがよいかについて、ネメルカ氏に意見を聞いた。

「Think Big, Start Small, Grow Fast(大きく考え、小さく始めて、改善を速くする)――これが組織の中で変革を起こす唯一の方法だと思う。新たな製品を導入する時、社内のあるブランドが小さいプロジェクトで使い始めたのがきっかけになることが多いが、最終的には大きな実務施策で使っていただきたいと考えている」(ネメルカ氏)

オンプレミスではなく、クラウドでテクノロジーを提供していることは「Start Small」につながる。なぜなら、クラウドはオンプレミスよりもテクノロジーを導入するハードルが低いからである。Oracleがユニークなのは、さまざまなアプローチからマーケティング・テクノロジーの導入を開始できる点にある。Bluekaiを広告で使ってもいいし、EloquaやResponsysをキャンペーンに使うのもいいし、コンテンツ開発、Eコマース、CRMでもいい。ビジョンとして最終的なあるべき姿を描き、優先順位の高さに応じさまざまなところからスタートできる。「"Start Small" を実践する時、その方法が変化に富んでいるのがOracle Marketing Cloudの特徴」とネメルカ氏は語る。

さらに、中編で紹介したように、「Start Small」が部分最適化になることを回避するため、Oracleはプラットフォームに力を入れている。マーケターの業務は、仮説立案と検証の繰り返しであり、日常的に小さな実験を繰り返しているようなものである。マーケターが何かをやって成功したとしたら、そこで終わるのではなく、さらに続きの実験ができるようなアーキテクチャにする必要があるとOracleは考えている。

だからこそ、オープンで標準のAPIを作ることに時間をかけてきたと言う。次のステップとして、別のアプリケーションが必要になったり、データソースが必要になったりするかもしれないし、メディア・チャネルを増やす必要があるかもしれないが、共通基盤となるプラットフォームがあれば"Think Big"の実現が阻害されないというわけだ。

製品提案の決め手は購買サイクル

また、Oracle Marketing Cloudでは、B2B企業向けに開発されたEloqua、B2C企業向けに開発されたResponsysという2種類の製品を有する。このことが製品を導入する際にどのように影響するかについて尋ねた。

ネメルカ氏は、「B2BとB2Cで製品を区別していない。購入を決断するまでの時間の長さで考えている」と答える。「一見、同じようなチャネル横断型のテクノロジーを導入すると見られる場合でも、購入の意思決定に時間のかかる単価の高額な耐久消費財のビジネスではB2CでもEloquaが向いていることがあるし、B2Bでも広告が強い影響を与えるビジネスの場合はResponsysのほうが適していることがある。Oracleは、業務によって適した製品を判断しており、他の要素も考慮するが、基本的には購買サイクルでどちらを提案するかを変えている」と説明した。

パートナーに求めるものは「お客さまの理解」

デジタルマーケティングに注目しているのは、ブランドを持つ企業や広告代理店だけではない。国内をベースにマーケティング関連ビジネスを展開するIT企業やサービスプロバイダーも同様である。最後に、数多く存在するマーケティング・テクノロジーの中から適切なものを選び、適用範囲を拡大していくうえで不可欠なパートナーとの関係をどのように結んでいくべきかについて尋ねた。

「デジタルマーケティングに関連する技術への需要に対して、それを使いこなすスキルが不足していることは肌身で感じている。「マーケティング・オートメーションに精通した人材を雇用したい」ということはどの会社も考えていることだろう。これからのキャリア開発を考える人たちには、ぜひデジタルマーケティングを学ぶよう勧めたい。

また、お客さまを深く心理的に理解できること、製品テクノロジーを深く理解することの両方が備わって初めて、マーケティング戦略から価値を創出できる。Oracleは製品やテクノロジーに大きな自信を持っているが、お客さまの心理的な部分をよくわかっている人に、テクノロジーでできることを理解してもらうことも重要と考えている。だから、デジタルマーケティングとすでに何らかの関わりがあることがOracleの戦略的パートナーの条件になる。既存のお客さまとは、Oracleの製品を使ってもらうところで深い関係を築いているので、さらにこの関係を強化するパートナーと一緒に仕事をしたいと思う」とネメルカ氏は結んだ。