「おじいちゃんやおばあちゃんたちにとって重要な要素は『文字が大きい』ということ。イメージは、誰でも使える銀行のATMです」(ドコモCS 長野支店 法人営業部 SE担当主査 山田 将人氏)
文字だけでなく、アイコンも大きめのものを用意。Androidのホームアプリとして作りこむことで、ファーストビューからそこだけで操作を完結できるように、徹底的にシンプルなインタフェースにしている。設定によってホームにおけるアプリは変更できるが、天龍村では現在、メールアプリとテレビ電話アプリ、新聞アプリ、その他フォルダ(中には健康手帳、脳トレ、ラジオ、アルバムアプリを用意)の4つが置かれている。
もちろん、ひとえにシンプルなインタフェースといっても、大きなアイコンやボタンがたくさん並び過ぎていては、高齢者が操作に困ってしまう。
「文字入力は色々検討したのですが、デフォルトのAndroidキーボードは極力出ないようにしました。デフォルトのものだと、飛行機のコクピットをイメージしてもらうとわかりやすいんですが、知らない人にとってみれば機能がよくわからないボタンがたくさん用意されているように見える。キーボードに限らず、できるだけ高齢者の方に悩ませないよう、ボタンを一度に表示するのではなく、複数の階層を用意してメニューをこなす形のUIにしました。ステップを経て利用できる方が、高齢者の方は悩まずに済むんです。一見、面倒に見えることが、わかりやすいんです」(山田氏)
こうした"気付き"は、自分たちの想定だけで考えたものではなく、実証実験としてかねてから協力していた天龍村と大町市の住民の声から得たものだと山田氏は話す。
「想像にも限界があります。ですので、高齢者の方に意見を聞きに回りましたし、動画も撮影させてもらって、タブレットをどのように使っているのかを見て、勉強しました」(山田氏)
こうした地道な作業から得た知見は、アプリに反映されている箇所も多い。例えば、「手書き」。村が住民に配布しているタブレットにはタッチペンが用意されているが、高齢者の多くはタッチパネルに手を添えて文字を書こうとする。もちろん、紙に何十年も書き込んできた習慣なのだから当然のことだが、タッチパネルに慣れ親しんでる我々からすると、手を浮かして書くという人も少なくないだろう。高齢者は手を付けるだけでなく、反対の手を添えて書くケースもあり、「誤タッチ例が非常に多かった」(ドコモCS 長野支店 法人営業部 法人営業担当 新堀 雄基氏)。そこで山田氏らは、開発会社と協議の上で、書くスペースを1行ごとに制限し、それ以外のタッチ判定を無効化。より"紙と鉛筆"の使い勝手に近づけたわけだ。
「また、ホーム画面の動きにもこだわっています。そんなことと思われるかもしれませんが、そうしたちょっとした動きとかに反応してくれるお年寄りの方がいらっしゃるんです。デザイン案は色々あったんですが、例えば、家の中にいるけど、外の絵も見せることで、家の雰囲気を表現したりしています。面白いところでは、出てくるキャラクターのまばたきや、ワンちゃんがしっぽを振っているアニメーションもあります。これで"このタブレットは凄いモノなんだ"とわかってもらえるといいんですが(笑)」
ホーム画面の作りこみ。「こんなことが何になる」と思われるかもしれないが、後編でお伝えする高齢者のインタビューでは「私の名前を呟いてくれるの」と、かなり気に入っている人もいた。こうした"ちょっとした"工夫が心をつかむ |
UIにこだわっている箇所はほかにもある。先ほど挙げた「手書き」はメールアプリで利用されるもので、「おらのタブレット」用に開発された。ほかにも脳トレアプリや脈拍や歩数を記録する健康手帳アプリも、高齢者にわかりやすいUIに作りこむために、専用アプリを開発している。