日本マイクロソフトら6社は8月25日、「Microsoft Azure Machine Learning」を活用した診療支援技術研究開発プロジェクトの研究開発事業を10月より開始すると発表した。

6社は日本マイクロソフトとUBIC MEDICAL、アドバンスト・メディア、システムフレンド、セムコ・テクノ、ソフトバンクで、慶應義塾と協力して事業を進める。

精神科領域において患者症状の重症度は、患者の自覚症状や評価者の観察に基づいて評価されている。しかし、日常臨床における治療導入決定や治療効果判定、新薬開発のための治験では、こうした評価の客観性の低さが障壁となるケースもあるという。

これらを踏まえ、慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室の岸本 泰士郎専任講師の研究チームは、表情・瞬目モニタリングによる客観的なうつ病・躁うつ病症状の評価研究に取り組む。

この研究では、気分、集中力、倦怠感といった患者の主観的体験や、他者が観察可能な気分の表出、動作速度など、病状の中心となる症状を定量化。診療時における表情、音声、体動などのデータをデバイス内で一次解析し、クラウドに転送、重症度評価のアルゴリズムと突合して症状を客観的に評価し、リアルタイムで診察室に結果を提示する診療支援デバイスの開発を目指す。

また、スマートフォンなどをプラットフォームとして過去数週間の生活活動データをクラウドで入手し診察室でのデータと融合し、解析を補完していく。

取得したデータはマイクロソフトが提供するクラウドベースな機械学習サービス「Microsoft Azure Machine Learning」を活用。各疾患のゴールドスタンダードである評価尺度との相関が高くなる最適なアルゴリズムを探索・構築する。

これにより、従来定量化し得なかった患者の思考、表情、発言内容を可視化し、臨床評価や治療に活用することが期待されている。

「ICTを活用した診療支援技術研究開発プロジェクト」イメージ

こうしたデバイスの開発によって客観的評価尺度が確立されれば、重症度や治療効果判定の客観性が高まり、治療選択が科学的根拠に基づくものとなる。バイアスの大きい評価に依存しなくてもよくなることで、治験の失敗も防ぐことにつながるという。

また、客観的指標の普及によって治療実績の評価・比較が容易になり、国家レベルの施策も行いやすくなる。さらには、医療費抑制だけでなく、基礎研究の促進、医療輸出への貢献も期待される。

今回のプロジェクトにおいて、UBIC MEDICALは、事業化および事業化後の販売を担う。研究においては、独自開発の人工知能技術を駆使したテキスト分析を用いて、語彙数・指示語・感情語・文章構造に重点を置いた解析により、テキストにあらわれた患者の思考や表現の定量化を行う。

アドバンスト・メディアは、この研究における精神科領域専用辞書を作成し、音声認識技術AmiVoiceを用いてテキスト化する。続くシステムフレンドは、赤外線を使ったモーションセンシング技術で診察室入室から退室までの体動を記録し動作速度や落ち着きのなさを定量化する。

セムコ・テクノの担当領域では、システムフレンドとセムコ・テクノの共同作業によって、これら精神症状の定量化のために最適化された各種センサー、解析機能、結果表示モニターといった機能を搭載したデバイスを開発する。

また、ソフトバンクは被検者から睡眠、活動量、会話といった日常生活活動について、スマートフォンなどでデータを収集する。日本マイクロソフトは、得られたデータをセキュアに保管、機械学習のAPIを提供し、データ解析を実行するプラットフォームを提供し、全体のシステムの設計も担う。

一方で慶應義塾は解析結果と、一般的な臨床症状評価を突合し、重症度評価のアルゴリズムを作成する。なお、表情解析はオムロンとの表情認識技術を用いた共同研究の取り組みとして実施するという。