岡山大学は8月18日、イネが籾殻にケイ素を優先的に分配・蓄積するための仕組みを解明したと発表した。

同成果は同大学資源植物科学研究所の山地直樹 准教授、馬建鋒 教授らと農業環境技術研究所の櫻井玄 研究員の研究グループによるもので、8月17日付(現地時間)の「米科学アカデミー紀要」オンライン版で公開された。

植物は土壌からケイ素を吸収し、葉の表面などにシリカとして沈着させる。このシリカ沈着はさまざまなストレスから植物を保護する働きを持つ。特にイネは多くのケイ素を蓄積する性質があり、その蓄積は米の生産性に極めて重要とされている。イネは蒸散の少ない籾殻に高濃度のケイ素を蓄積する仕組みを持っており、その中で葉と茎の接点である「節」の働きが重要であることがこれまでの研究でわかっている。しかし、その具体的なメカニズムは断片的にしか明らかにされていなかった。

今回の研究では、すでに明らかにされているケイ酸を透過する輸送体Lsi6に加えて、ケイ酸を細胞外に排出する輸送体Lsi2とLsi3の計3種類の輸送体タンパク質が節でのケイ酸の分配に協調的に働くことがわかった。具体的には、Lsi6は葉につながる肥大維管束の周縁部にある「木部転送細胞」の導管に面した側面に、Lsi2は肥大維管束を包む細胞層「維管束鞘」の外側面に、Lsi3は肥大維管束と上の節または穂につながる「分散維管束」の間の複数の細胞層に発現していた。このことから、葉へと続く肥大維管束の導管にケイ酸を含む蒸散流が流れ込むと、まずLsi6によって選択的にケイ酸が木部転送細胞に取り込まれ、続いてLsi2とLsi3によって上の節や穂へと続く分散維管束の導管に再び積み込まれる、ケイ酸の「維管束間輸送」が行われていると考えられた。

また、「肥大維管束」の肥大による蒸散流の減速、「木部転送細胞」のひだ状構造による表面積と輸送体発現の増加など、「節」の特徴的な構造が効率的な「維管束間輸送」に寄与していることも判明。特に、Lsi2が発現する「肥大維管束」の「維管束鞘」に新たに見出された、細胞間の水や溶質の透過を妨げるバリアーは、Lsi6とLsi2-Lsi3の連携によって「分散維管束」側へとケイ酸を濃縮するために欠かせない堤防の役割をしていることがわかった。

このケイ素の分配メカニズムは、他のミネラル元素の分配メカニズムを理解するためも重要なモデルケースになると考えられている。今回の成果をベースに、それらのメカニズムを解明し、各栄養素や毒性元素の殻粒への分配を選択的にコントロールできれば、イネ科作物の生産性や栄養価、安全性の向上が期待できる。

ケイ素欠乏の稲穂。深刻な病虫害を被っている

節の断面の染色像

ケイ素の維管束間輸送と穂への優先的分配