7月14日より掲載を開始したレポート「事例から見る動画活用の可能性」では、3回にわたり、顧客のデータに基づいてOne to Oneで動画コンテンツを再生する「パーソナライズド動画」の活用事例とその優位性を紹介していく。

最終回となる今回は、パーソナライズド動画を利用したオンライン動画広告と、双方向コミュニケーションを可能にするパーソナライズド・インタラクティブ動画に関して紹介したい。

パーソナライズド動画の草分け的な存在となる米SundaySkyは2007年、イスラエルのテルアビブで創業した。2015年7月現在は、ニューヨークやロンドンに拠点をもち、SmartVideoと名付けたパーソナライズド動画サービスを北米を中心にグローバルで展開する。2015年4月には東京にも事務所を開設し、本格的な活動を開始した。

事例1 : OfficeDepotによるパーソナライズド動画広告

米文具・オフィス用品チェーンとなるOfficeDepotは、Eコマースサイトの訪問者を対象としたパーソナライズド動画広告を米SundaySkyのソリューションを利用して配信している。

例えば、サイト離脱者に対しプレロール型動画広告(ユーザーが視聴する動画コンテンツの前に再生されるもの)を配信。サイトでの行動履歴情報などをもとにパーソナライズした動画を採用した。

この動画の中には、サイト上で閲覧した商品と同じカテゴリーのお勧め商品や、カートに入れたままになっている商品が値札と共に表示される。

米OfficeDepotによるパーソナライズド動画広告イメージ

また、パーソナライズド動画によるリターゲティング広告は効果が高く、米Sundayskyの資料によると、サイトへの再訪問率は5~12%、追加受注率は6~25%、ROAS(Return On Ad Spend : 広告費用対効果)は4~12倍に達するという。

パーソナライズド動画を進化させるインタラクティブ機能

パーソナライズド動画ソリューションの中でも特徴的な「インタラクティブ機能」というものがある。これは、動画の中に選択肢が表示され、閲覧者自身が選択するという機能。2015年4月に米Pitney Bowesが買収したReal Time ContentのPIV(Personalized Interactive Video)はこの機能を搭載する。

PIVは、ビデオの途中で選択肢やアンケートが表示され、その回答によってその後のシナリオが分岐していく仕組み。説明を聞いていて分かりにくい部分や、詳しく知りたいと思ったところだけをさらに掘り下げて説明してもらうことができるほか、アンケートの質問に回答していくと最適な商品を紹介してくれる。

これは、パーソナライズされたといっても一方通行だった動画視聴体験を、さらに大きく変える機能となるだろう。

PIVにおけるインタラクティブ機能のイメージ

パーソナライズド動画を本格的に活用するために

マーケティングにおける動画の活用は今後、日本でもさらに盛んになるだろう。これに伴い、動画コンテンツも増えてくるが、そのコンテンツがより顧客に "刺さる" ようにするため、データによるパーソナライズが行われるのは自然の成り行きだ。

パーソナライズド動画の活用にはそれなりにコストと労力がかかるが、ROIが見込める業界なら普及は早いのではないだろうか。

しかし、動画がパーソナライズされていても、Webサイトやメール、コールセンターなど他のチャネルで顧客データが活用できていなければ、顧客体験全体で見た際にアンバランスで居心地が悪いものになってしまう。

例えば、仮に契約後2ケ月間の請求時にはvideo billを送っても、その後は何の工夫もされていない型通りの請求書が郵送されるだけでは、顧客は逆に不満を感じてしまうかもしれない。

マーケティングにおいて動画を活用する際に大切なことは、他のチャネルを含めクロスチャネルで顧客を中心とした一連のコミュニケーション施策を構築し、その一部として全体のシナリオの中に位置づけることだと筆者は考える。

特に、パーソナライズド動画は、統合されたマーケティングデータベース(プライベートDMPと呼んでもいい)や、マーケティングオートメーション / キャンペーンマネジメントと連係し運用することによって、さらにその真価を発揮するようになるだろう。

【全3編】事例から見る動画活用の可能性
上 : パーソナライズド動画とは
中 : CRMとしてのパーソナライズド動画
下 : 広告としてのパーソナライズド・インタラクティブ動画

著者紹介

岡本泰治

株式会社ディレクタス 代表取締役。リクルートを経て、1993年にディレクタスを設立。以後一貫してデータベースマーケティングに携わる。航空会社や自動車メーカー、総合電機メーカーなど大手企業のEメールマーケティング戦略を立案したほか、2012年よりBtoC向けマーケティングオート メーションの導入・運用を開始。クロスチャネル One-to-Oneマーケティングの戦略立案から実行までを支援する。著書に「ケースで学ぶマーケティングの教科書」(出版社 : 秀和システム / 出版日 : 2008年2月)がある。