シロアリが持つ強力なセルロース分解能力の仕組みを解く研究を続けている理化学研究所の研究チームが、決定的な役割を果たしているとみられる腸内微生物を突き止める新たな成果を12日、発表した。
地球温暖化対策としてバイオマス利用に対する関心が高い。しかし、食料にならないバイオマスの利用はあまり進んでいない。植物細胞壁の主成分であるセルロースを分解する有効な技術の開発が難航しているのが一因だ。理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室の大熊盛也(おおくま もりや)室長らは、これまでシロアリの強力な生命力が、シロアリとその腸内の原生生物(動植物、菌類に属さない真核生物)と原生生物の細胞内に共生する細菌との3者間に存在する持ちつ持たれつの関係に起因することを明らかにしてきた。
今回の研究成果は、こうした3者の関係をさらに詳細に解明している。研究チームはオオシロアリの腸内でセルロースの分解に最も重要な働きをするEucomonympha属の原生生物と、その細胞内に共生する細菌に着目した。研究の結果、シロアリが食料とする木材に乏しい窒素を細菌が空気中から取り込んで、生物が利用できるアンモニアに変える。さらにシロアリの腸内で原生生物によってセルロースが分解され、代謝された後に生じる二酸化炭素(CO2)と水素から酢酸も作る、ことが確かめられた。こうした共生細菌の働きによって、研究チームが調べたEucomonympha属の原生生物だけで、腸内微生物群全体が持つ空気中の窒素からアンモニアを作成する能力のほとんどと、CO2と水素から酢酸を作り出す能力の約6割を担っていることも分かった。
シロアリは、木造家屋を食い荒らす害虫である一方、森林では枯れ木を分解する重要な役割も果たしている。バイオマス利用では、トウモロコシや大豆のような食料になる原料以外のセルロース系バイオマス資源を活用する技術開発が急がれている。
シロアリの腸内でみられる高効率の共生システムを解明していくことで、セルロース資源の効率的な利用法開発につなげることが期待できる、と研究チームは言っている。
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