以前、本誌で、質の高い見込み顧客を得るには、顧客エンゲージメント・プロセス全体を通して、訪問者それぞれの行動の意図を理解することがカギと説明した。この点を掘り下げるため、2回にわたり、コンテンツマーケティングの考え方を紹介し、デジタルマーケティングにおける訪問者、見込み顧客、顧客への具体的なアプローチ方法について考えてみたい。

コンテンツマーケティングとは何か?

コンテンツマーケティングの実践方法について、さまざまな情報を提供しているContent Marketing Institute(以下、CMI)によると、コンテンツマーケティングは次のように定義される。

コンテンツマーケティングとは、明確に定義したオーディエンスを引き付けて獲得することを目的とし、価値があり、適切で一貫性のあるコンテンツを制作・発信することを重点的に行う戦略的なマーケティング・アプローチである。そして、究極的には売上につながる顧客の行動を喚起することを目的としている。

ここで注目すべきは、「ビジネスに貢献する」という目的を巧妙に隠す点である。コンテンツマーケティングは販売促進行為と直接的には結び付かない。あくまでもコンテンツは、オーディエンス(訪問者、見込み顧客、顧客など)に関心を持たせたり、情報を提供したり、楽しんでもらったりするためのものとして提供される。売上につながる行動を促すことを意図して作成され、オーディエンスに販売目的がほのめかされることはあっても、露骨に見えるようではいけない。また、単独では面白いコンテンツであっても、オーディエンスの関心との関連性が薄いものは望ましいコンテンツではない。

デジタルマーケティングにおけるコンテンツの意義

企業がオーディエンスと結びつくためのコンテンツには、さまざまなものがある。ブログおよび雑誌の記事、メールマガジン、ケーススタディ、ホワイトペーパー、インフォグラフィック、ニュースリリース、プレゼンテーション資料、セミナー、展示会、動画(広告制作物を含む)など、いずれもこれまで企業が実施、制作してきたものである。

また、ケーススタディやホワイトペーパーのようにB2B企業に特有のコンテンツと、テレビCMの動画のようにB2C企業に特有のコンテンツがあるし、セミナーや展示会など、オンラインではないイベントもコンテンツである。ただし、オーディエンスの行動や変化を促さないコンテンツはただのコンテンツとして、コンテンツマーケティングのコンテンツとは区別される。

企業は公式サイトを始め、製品/サービスごとのサイト、コマースサイト、アフターサービスのためのサイトなど、さまざまなWebサイトをビジネスに応じて構築してきた。そのため、企業はすでに多くのWebコンテンツ資産を保有しており、コンテンツマーケティングにおいてWebコンテンツは重要な役割を果たすことになるだろう。

しかし、既存のWebコンテンツおよびWebサイトは、オーディエンスごとに求める情報を提供できる「パーソナライゼーション」に対応できるように作成されてきたわけではない。ビジネス戦略からの必要性よりも、むしろテクノロジーの進展に伴い、数年に一度Webサイト刷新を繰り返してきた企業も多いのではないか。

前述したとおり、コンテンツマーケティングにおけるコンテンツはあくまでもビジネスに貢献するものでなくてはならない。これは、企業にとって、顧客の視点で必要な情報をコンテンツ化する発想の転換が求められることを意味する。マーケターの仕事のやり方も大きく変わることになるだろう。

今までは伝えたい情報を整理して、コンテンツを作成・提供していたのに対し、オーディエンスとオーディエンスにとって役に立つ情報は何かを定義し、主体的に提供していくオーナーシップと編集者の役割と意識がこれからのマーケターに求められるからである。一部で「コンテンツマーケティング≒オウンドメディア」と理解されているのは、この役割と発想の転換が求められていることによる。

ペルソナでターゲットになるオーディエンスを理解する

マーケターがメディアの編集長としてコンテンツマーケティングを実施する場合、オーディエンスがどのような情報を求めているかを理解することが最も重要である。CMIは下図に示すように、コンテンツマーケティングのフレームワークを提供しており、オーディエンスを理解するにはペルソナを定義することが役立つと指摘している。

ペルソナは、オーディエンスの特徴を箇条書きにしたものではなく、デモグラフィック情報、仕事の内容、1日の過ごし方、メディアとの接し方、製品・サービスへの関与の仕方などを簡単な文章にまとめたものである。ペルソナはB2C企業の製品開発で利用されている事例があるが、B2B企業ではなじみのない考え方であろう。

B2Bの購買プロセスは複雑でステークホルダーが多いことが特徴である。B2B企業の場合、性別や趣味を重視する必要はないが、その代わりに組織内の役割や職位を考慮すればよい。現実のオーディエンスは非常に多くの人々で構成されているが、これらをいくつかのペルソナに類型化することで、製品・サービスの購入に影響を及ぼすインフルエンサーを含むさまざまなステークホルダーを整理することに役立つ。また、コンテンツの制作はチームで行うものであり、ペルソナはマーケティング活動におけるチーム全員の共通認識を維持することにも役立つ。

コンテンツマーケティングのフレームワーク 出典:Content Marketing Institute