光でオン・オフが可能な超伝導スイッチを、分子科学研究所(愛知県岡崎市)の須田理行(すだ まさゆき)助教と山本浩史(やまもと ひろし)教授、理化学研究所の加藤礼三(かとう れいぞう)主任研究員が世界で初めて開発した。光に応答する有機分子を組み込んだ電界効果トランジスタを作製して実現した。光で遠隔操作できる高速スイッチング素子や、超高感度光センサーなどの開発につながる成果といえる。2月13日に米科学誌サイエンスに発表した。
図2. 紫外光照射による絶縁体から超伝導への変化。初期状態は抵抗値の高い絶縁体状態だが(赤線)、紫外光の照射とともに次第に抵抗値が減少し、180秒の照射後、絶対温度7.3度で超伝導状態に転移する(青線)。(提供:分子科学研究所) |
電界効果トランジスタは、ゲートと呼ばれる電極への電圧入力によって回路に流れる電流の大きさを制御するスイッチング素子で、スマートフォンやコンピューターなどの多くの電子機器の基盤技術として用いられている。近年では、より省電力で高速に情報を処理できるとされる量子コンピューターなどの実現へ向けて、極低温で電気抵抗ゼロの超伝導状態のスイッチになる超伝導トランジスタの開発が盛んに行われている。
研究グループは、Κ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Br (以下、Κ-Br)という有機物質を用いて電界効果トランジスタの開発を進めてきた。2013年には、有機物では世界で初となる超伝導トランジスタを作製した。柔らかさや軽さなどの利点も相まって、これまで超伝導トランジスタには不利とされていた有機物の可能性が見直されつつあった。
今回の実験では、このΚ-Brを用いた超伝導トランジスタのゲート電極部分を、光に応答して電気的に分極するスピロピランという有機分子の薄膜に置き換えた、新しい光駆動型トランジスタを作製した。これまでの電界効果トランジスタでは、外部電源で物質に電荷を蓄積させて電気抵抗を制御していた。今回開発したトランジスタは、紫外光の照射で有機薄膜を分極させて物質に電荷を蓄積させ、一方で、可視光の照射で分極を消去して電荷を取り除くことができる仕組みになっている。
このΚ-Brを用いた光駆動型トランジスタを極低温まで冷却しながら電気抵抗を測定すると、初めは絶縁体状態だったが、紫外光の照射で次第に電気抵抗が減少していき、最終的に絶対温度7.3度で電気抵抗が急激に減り、超伝導状態に転移する現象が観測された。この状態は、紫外光の照射を止めても恒久的に維持できた。また、可視光を照射すると、元の絶縁体に戻る現象も観測され、光で可逆的に入れたり切ったりできる超伝導スイッチとして動作することを突き止めた。
山本浩史教授らは「このトランジスタで『光で超伝導をスイッチする』という新しいデバイスの概念を提示した。光を当てると、界面にダイポール電界効果を生じる薄膜を使ったのが重要だ。光で遠隔操作が可能な高速スイッチング素子や、超高感度光センサーなど新しいイノベーションにつながることが期待される。今回用いた手法は、Κ-Brに限らず、原理的には電界効果トランジスタに用いられる多くの物質に拡張して適用できる。さまざまな光駆動型相転移デバイスの開発につながる基盤技術になる」とみている。