ルネサスのマイコンを使ってアイデアを具現化

大手マイコンベンダのルネサス エレクトロニクスと、クラウドファンディング「COUNTDOWN」を提供しているアレックスは、2014年(昨年)10月から、個人のアイデアを電子工作で実現し、さらには商品化するまでを支援するプログラム「がじぇっとるねさす チャレンジプログラム」を共同で進めてきた。

チャレンジプログラムは概ね、4つのステージで構成されている。はじめは「ラーニングステージ」で、参加者にクラウドファンディングの基礎や、ものづくりに必要な知識などを習得してもらった。次が「プロトタイピングステージ」で、参加者(一般からの応募者)にアイデアを形にしてもらう。このためにルネサスは、電子工作に必要な機器や工具などを置いた試作スペース「がじぇるーむ」を東京・飯田橋のオフィスに設け、参加者が利用できるようにした。

「がじぇっとるねさす チャレンジプログラム」のステップ(ステージ)とスケジュール。スタート地点である「ラーニングステージ」から、ガジェットを作る「プロトタイピングステージ」、ビジネスの可能性を評価する「マーケットステージ」、商品化計画へと進む「チャレンジステージ」まである。期間は2014年10月から2015年3月ころまでの予定

そして2014年12月13日には、チャレンジプログラムは次の重要なステップである「マーケットステージ」に進んだ。これは参加者が試作した作品のコンテストである。アイデアと試作品を開発者が紹介し、聴講者(ほかの開発者や一般の来場者など)が作品を採点することで優秀な作品を選出するというイベントである。総計で15点の試作品が披露され、その中から3点が優秀作品に選出された。

評価方式は5項目の5段階評価である。5項目とは、発表内容(わかりやすさ、納得感)、新規性(新しいか、見たことがないか)、アイディア性(面白さ、斬新さ)、実用性(使えそうか)、欲しい度(買ってみたいか、買ってあげたいか)、である。これらの各項目に対し、5:とてもいい、4:いいかも、3:まあまあ、2:いまいち、1:ざんねん、の5段階で評価した。

「がじぇっとるねさす チャレンジプログラム」の参加作品一覧

「がじぇっとるねさす チャレンジプログラム」のマーケットステージ会場。ルネサスの半導体トレーニングセンター(東京・飯田橋)。なお大阪市淀川区のルネサスシステムデザインにも会場(関西会場)があり、両方の会場をビデオ会議システムで結んでいた

懐中電灯がメッセンジャーに変わる

コンテストの結果、第3位に選ばれたのは「電池アダプタ型メッセンジャーの製品化」というタイトルの作品である。作品は、市販の乾電池と同じ形状をしている。4個くらいの乾電池を使うLED懐中電灯の乾電池を1個外し、作品の電池アダプタと交換する。すると、LED懐中電灯が点滅してモールス信号そのほかのメッセージを外部に伝えることができるようになる。

電池アダプタの試作品

LED懐中電灯に組み込むことでメッセンジャーになる

乾電池型アダプタの内部回路。ルネサスのマイコンボード「GR-KURUMI」を内蔵する

ペンライトでイベントやカラオケなどを盛り上げる

第2位に選ばれたのは、「きらきライト」というタイトルの作品である。開発者はコンセプトを「近未来型ハイテクペンライト」と表現している。LEDを並べた発光部と持ち手で構成されたペンライトで、音声を光に変換する機能、赤外線通信機能を備える。

ペンライトを振ったり、回転させたりしながら、LEDを光らせることで「バーサライト」と呼ばれる電光文字表示板となる。実演では例えば「ルネサス」という文字を表示してみせていた。また音声を拾って光る機能も備える。実際にカラオケボックスに持ち込み、歌声に連動して光り方が変わることを確かめてきたという。

「きらきライト」のコンセプトを示したスライド。左上に実物の写真が見える

「きらきライト」の主な機能。「バーサライト」や「自動演出(音から色への変換)」などがある

価格の検討結果。フルカラーの高機能品なので、5000円程度の価格帯になるとしている

運転免許がなくてもクルマの運転を楽しめる

そして第1位(最優秀作品)に選ばれたのは、「シンクロナイズドドライビング」というタイトルの作品である。運転免許証を取得できない年齢の児童が、自動車を運転する気分を味わえるという楽しいガジェットだ。ハンドル、アクセル、ブレーキのほかにディスプレイを備えており、ディスプレイには実車と同様のメーターが表示される。

このガジェットを自動車の後部座席に取り付け、運転者が実際に自動車を走らせているときの動作に同期してガジェットを操作する。ガジェットは操作の種類と量をスマートフォンに送信する。スマートフォンではクルマ情報APIのデータとガジェットの情報を比較し、運転者とどのくらい同期(シンクロ)しているかを「シンクロ率」としてディスプレイに表示する。

このガジェットの凄いところは、運転者の模倣をするのではない、という点だろう。例えば、交通法規に則ればブレーキ操作であるところを、ガジェット操作者はブレーキ、運転者はアクセル操作をしたとする。すると、このガジェットは運転者に対してNGを発するのだ。また交差点では、右左折をガジェット操作者が運転者に口頭で尋ねることで、運転をシンクロさせる。親が運転者、子供がガジェット操作者であれば、親子のコミュニケーションが活発になる。

ガジェットの構成と動作。ルネサスのマイコンボード「GR-KURUMI」を内蔵したハンドルから、ハンドル角度とアクセル、ブレーキの操作情報をスマートフォンに送信する。これを実車のクルマ情報APIのデータと比較して、シンクロ率を計算する

ガジェットの操作者と自動車(実車)の運転者の操作が違った例

ガジェットを操作した感想

なお、これらの上位入賞者には賞品のほか、次のステージである「チャレンジステージ」への進出優先権が与えられた。チャレンジステージでは、商品化に向けた仕様検討や開発・製造・販促計画、諸契約などが予定されている。そしてクラウドファンディング「COUNTDOWN」に出品して出資者を公募することになる。

表彰式の様子。賞状を読み上げているのは、アレックス代表取締役社長の辻野晃一郎氏。受賞者は第1位のチームリーダーである小林ななさん

発表者が集合した記念撮影写真。当日はルネサスの電子工作ボードを使用したガジェットの品評会「ルネサスナイト6」(「6」は第6回の意味)も合わせて開催されたので、こちらの参加者も記念撮影には並んでいる。また今回はイベント「ルネサスナイト6」の中にチャレンジプログラムのマーケットステージを含めた形で実施された