東京工業大学はこのほど、細胞内に送り込んだ一酸化炭素(CO)をゆっくりと放出させ、がんの原因となる転写因子たんぱく質の活性を制御することに成功したと発表した。

同成果は同大学大学院生命理工学研究科の上野隆史 教授と藤田健太氏らによるもので、11月19日付け(現地時間)の米学会誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン版に掲載された。

COは体内の多くのたんぱく質と強く結合し、身体に悪い影響を及ぼすことが古くから知られている。一方で、近年ではCOとたんぱく質の結合は炎症やがん化を抑制する働きを持つことが明らかになり、次世代の医薬品として注目されている。

上野教授らは、生体中で鉄を貯蔵するカゴ状たんぱく質であるフェリチンに着目し、12nmのカゴの内部に、金属と結合したCOを閉じ込め、細胞内に送り込んだ後に、ゆっくりとCOを放出するシステムを開発した。その結果、従来の化合物に比べ、効率よくCOを細胞内で作用させることができ、がんの原因となる転写因子たんぱく質の制御に成功したという。

今後、不明な点が多いCO分子の生体内での機能解明ばかりでなく、複雑で難しい医薬品製造を必要としない簡便な治療薬の開発につながることが期待される。

フェリチンのX線結晶構造