地球科学に新しい成果がもたらされた。地球内部のマグマは深くなればなるほどその色が「暗く」なり、従来予想されていたよりもずっと熱を伝えにくくなることを、東北大学大学院理学研究科の村上元彦(むらかみ もとひこ)准教授らが初めて超高圧の再現実験で明らかにした。深さ約2900kmのマントルの底に存在する重いマグマが、持つ巨大な高温マントル上昇流(スーパーホットプルーム)の発生に重要な役割を果たしていることを示した。
地球内部の核からマントルへの熱輸送の特性に手がかりを与え、46億年の地球史に迫る発見といえる。米カーネギー研究所のアレキサンダー・ゴンチャロフ主任研究員、高輝度光科学研究センターの平尾直久(ひらお なおひさ)研究員、日本原子力研究開発機構の増田亮(ますだ りょう)博士研究員(現、京都大学原子炉実験所)、三井隆也(みつい たかや)主任研究員、米ネバダ大学のシルビアモニク・トーマス博士研究員、米ノースウェスタン大学のクレイグ・ビーナ教授との共同研究で、11月11日付の英オンライン科学誌ネイチャーコミュニケーションズに発表した。
半径約6400kmの地球の内部は、厚さ5~70kmの地殻の下に深さ約2900kmまでマントルがあり、さらにその内側が液体の外核、固体の内核で構成される。高温高圧の核の熱が地表に輸送され、地震や火山、地殻変動が起きている。地震波の観測で地球内部の研究が1980年代から進み、南太平洋とアフリカ大陸の下には、マントルの底に地震波超低速域が存在し、キノコ状にわき上がる巨大な上昇流「スーパーホットプルーム」があることがわかってきた。しかし、この地球内部からの熱の輸送を担うマントル対流の発生原因は謎だった。
研究グループは、マントル底部に存在するとされる重いマグマと同じ成分(ケイ素、マグネシウム、鉄などの酸化物)を持つガラス物質をマグマの模擬試料として、「ダイヤモンドアンビルセル」という超高圧力発生装置に入れて再現実験をした。マントル深部に相当する80万気圧まで圧力を上げていくと、試料の色が著しく「暗く」なった。さらに、大型放射光施設Spring-8(兵庫県佐用町)で分析して、試料中に含まれる鉄の電子状態が圧力の増加に伴って変化することが「暗く」なっていく原因であることを突き止めた。
物質の色が暗くなるほど、熱は伝わりにくい。実験結果から、マントル底部の重いマグマの放射熱伝導率は、周囲を取り囲むマントルの鉱物より5~25倍も小さいことを確かめた。周囲より熱を伝えにくい重くて「暗い」マグマは核からの熱の輸送を妨げる。研究グループは「その存在がごくわずかでも、核とマントルの境界の熱流量を不均質にして、大きな熱流量の違いになり、マントル底部に根っこを持つスーパーホットプルームが生み出される」と解釈した。
村上元彦准教授は「実験で再現した重いマグマは、原始地球を覆っていたマグマの海の名残が、高温のマントルの底に現在に至るまで固化せずにわずかに残っているとも考えられる。実験結果は、マントル底部での地震波観測異常とスーパーホットプルームの発生という地球科学のふたつの大きな謎に、整合的な説明を与えるもので、46億年の地球史に光を当てる新しい手がかりになる」と話している。