京都大学は10月22日、高温超伝導体を用いたテラヘルツ光源における温度分布の可視化と制御に成功し、温度分布とテラヘルツ発振強度の関係を明らかにしたと発表した。

同成果は、同大 工学研究科の辻本学日本学術振興会特別研究員、掛谷一弘科准教授らによるもの。詳細は、アメリカ物理学会誌「Physical Review Applied」に掲載される予定。

テラヘルツ帯の電磁波を用いたテラヘルツ技術は、医療診断、セキュリティ検査、タンパク質の構造解析、高速無線通信、宇宙観測など、幅広い分野への応用が期待されている。テラヘルツ波の最大の特徴は、電波のような高い透過性と光のように優れた空間分解能をあわせ持つことである。このテラヘルツ波の連続光源の候補として、高温超伝導体のナノ構造を利用した超伝導テラヘルツ光源が2007年に発明された。それ以降、光源の実用化を目指し、これまで精力的な研究が世界中で行われてきたが、莫大なジュール熱による温度上昇が超伝導状態を破壊し、結果として光源の出力が低下してしまうという技術的問題が指摘されていた。

今回、極低温環境でも有効な温度イメージング装置を構築し、微小サイズの光源表面における特徴的な温度分布の可視化に成功した。そして、温度分布とテラヘルツ発振強度の比較ができる特殊な構造を有した光源を用いて実験を行い、過剰な温度上昇を抑制することでテラヘルツ発振の高出力化を実証した。さらに、得られた結果を数値シミュレーション解析することで、高出力テラヘルツ光源の実現につながる効率的な冷却方法を提案した。

研究グループでは、超伝導テラヘルツ光源が実用化されれば、これまで半導体素子を中心に発展してきたテラヘルツ技術に革命的な進歩をもたらし、国内の科学技術の発展に大きく貢献することが予想されるとコメントしている。

(a)超伝導テラヘルツ光源の電流電圧特性、(b)高電流域、(c)低電流域における発振強度の電圧依存性。挿入図は可視化した温度分布。過剰な温度上昇を抑制することで発振強度が増大していることがわかる