宇宙の歴史の研究で重要な謎解きにつながる成果が発表された。ビッグバン後の宇宙に最初に誕生した巨大質量星(太陽質量の100倍以上)の痕跡をとどめていると考えられる星を、国立天文台の青木和光(あおき わこう)准教授らがすばる望遠鏡(米ハワイ島)で初めて発見した。宇宙初期に誕生して、その後の星々と元素の合成の出発点となった巨大質量星の進化を探る手がかりになりそうだ。甲南大学、兵庫県立大学、米ノートルダム大学、ニューメキシコ州立大学の研究者との共同研究で、8月22日付の米科学誌サイエンスに発表した。

写真1. 特異な元素組成から宇宙初代の巨大質量星の痕跡とされた星。米SDSS望遠鏡による画像。(クレジット:SDSS/国立天文台)

星は、宇宙空間のガスやちりが集まって形成され、超新星爆発などによって死を迎える。宇宙ではこれが何世代にもわたって繰り返されてきた。その間に、炭素、酸素、窒素だけでなく、鉄や銅、銀、金、鉛などの重い元素も合成されてきて、太陽系に地球が生まれ、生命、人類も誕生した。この壮大な物語は、ビッグバンとその後に出現した初代星で始まった。

写真2. 初代の巨大質量星の爆発の想像図(クレジット:国立天文台)

写真3. 初代の巨大質量星が放出した物質と周囲の水素が混ざったガスから誕生すると考えられる小質量星の想像図(クレジット:国立天文台)

宇宙初代の星は、水素とヘリウムという軽い元素だけで構成され、超高温、超高圧の中心部が核融合反応を起こして強力な紫外線を放射して輝き、内部に炭素以上の重い元素を合成して、その後の星の材料を提供した。しかし、質量が大きいと、星の寿命はわずか数百万年で、早く燃え尽きてしまい、宇宙誕生から138億年後の現在、地球の望遠鏡で直接その姿を観測することはまだできていない。宇宙の初代星のなかに巨大質量星が存在したという理論はあるが、観測による証拠はこれまでなかった。

初代星がつくりだした物質は宇宙空間に放出され、次の世代の星に取り込まれる。そのなかには、質量が小さくて寿命が長い星もあったと予想され、初代星の痕跡を探す研究が30年あまり続けられてきた。しかし、鉄などの比較的重い元素を大量に合成する巨大質量星(太陽質量の100倍以上)の痕跡は見つからず、謎のひとつとされてきた。

研究グループは、地球から近い天の川銀河の星の元素組成を調べた。くじら座の方向に1000光年ほどの距離にある太陽質量の半分程度の小さな星が特異な元素組成を持つことを発見した。すばる望遠鏡の高分散分光器(HDS)で観測し、元素組成比のスペクトルを測ったところ、鉄の組成は太陽の300分の1程度で、比較的軽い元素の炭素やマグネシウムの組成は、太陽の1000分の1以下だった。鉄以外の元素の組成が極端に低かったのが特徴だった。

第2世代の星の元素組成は、多くの場合、太陽質量の数十倍の大質量星が起こす超新星の元素合成モデルでよく説明されてきた。しかし、今回発見された星の元素組成はそれでは説明できず、鉄を比較的多量につくり出す巨大質量星の爆発で予想される元素組成とよく一致した。この星は「初代の巨大質量星から放出された元素が周囲の水素ガスと混ざって生まれた第2世代の星の可能性が大きい」と結論づけた。

研究グループの青木和光准教授は「宇宙初代に太陽の100倍以上の巨大質量星があったという理論を支持する観測結果だ。数は少なくても、巨大質量星は爆発のエネルギーが大きいので、周りへの影響は強く、その後の宇宙の進化にも関わった。今回発見した大質量星の痕跡を示す星は、誕生して130億年ぐらいは経過しているのだろう。質量が小さいので、生き残った。国立天文台が国際協力でハワイに計画している直径30メートルの巨大望遠鏡TMTが完成すれば、宇宙誕生から数億年ころの宇宙初代の巨大質量星の光を直接とらえられる可能性がある」と話している。