産業の基盤である時計に新技術が登場した。イッテルビウムイオンを使って、高精度のマイクロ波原子時計を開発、試作するのに、情報通信研究機構(東京都小金井市)の志賀信泰研究員らが成功した。レーザー冷却技術を原子捕獲型のマイクロ波原子時計としては初めて本格導入して、時を刻む精度は、現在広く使われているルビジウム原子時計より5倍向上した。通信の多重化や高速化、測位の高精度化に役立つと期待される。6月20日のドイツ科学誌Applied Physics Bオンライン版と7月23日の英科学誌New Journal of Physicsに発表した。
精密な時計はナビゲーションや高速通信、精密機器など社会インフラに欠かせない。研究レベルでは、光格子時計などの光時計で誤差10のマイナス18乗という驚異的な精度が実証されつつあるが、産業界では、まだマイクロ波時計が利用の中心となっている。中でもルビジウム原子時計は、数十万円程度の安価で手軽ながら、誤差10のマイナス13乗の精度が得られるため、精密測定や放送、通信の分野で広く使われている。さらに精度の良い原子時計として、水素メーザー原子時計(誤差10のマイナス15乗)があるが、2000万円程度と高価、約500kgと重い据え置き型で、使いにくい。
研究グループは、ルビジウム原子時計と水素メーザー原子時計の間のギャップを埋めるために、新しいイッテルビウムイオン原子時計を開発した。原子捕捉型のマイクロ波原子時計では初めてレーザー冷却を適用してイオン温度を絶対温度1度以下まで冷やし、数分に1回磁場を精密測定して微妙にずれる周波数を補正する方法も併用して、ルビジウム原子時計の精度を5倍上回る時計を実現した。1000個程度のイッテルビウムイオンを捕捉して冷却するのは半導体レーザーのみを用いており、今後、小型化や省電力化の余地はあるという。
志賀信泰研究員は「新しい原子時計はコストダウンや長寿命化が可能で、量産すれば、1台200~1000万円、重さ10kgに下げられる。時計の精度が向上すれば、例えば通信の分野で電波の周波数と時間をより有効に分割して使えるようになり、重要な新技術になる。今後、性能を落とさずに小型化、低廉化を実現し、ぜひ早く実用化したい」と話している。
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