国立情報学研究所(NII)は8月8日、小さなダイヤモンドのかけらを用いた量子コンピュータの基本素子のデザインや、そこからシステムへ組み上げるためのアーキテクチャなど、大規模な情報システムを組み上げられるような素子とシステムの構成に成功したと発表した。

同成果は、同所の根本香絵教授らによるもの。NTT 物性科学基礎研究所、オーストリア・ウィーン工科大学の研究チームと共同で行われた。詳細は、米国物理学会の「Physical Review X」に掲載された。

今回のダイヤモンドを用いた量子コンピュータの構成方法は、誤り訂正にトポロジカル量子誤り訂正を用い、誤り耐性のある量子計算が実行可能であり、単純に素子の数を増やすことで、より大規模な問題を扱うことができるスケーラビリティに優れたものとなっている。トポロジカル量子誤り訂正を用いることで、アーキテクチャにスケーラビリティを持たせられる他、ダイヤモンドと共振器を用いた素子設計で集積化を可能にしている。

一方で、ダイヤモンドは、近年急速に研究が進んでいる材料で、結晶制御や微細加工などが可能になってきた。また、その詳細な量子的性質も明らかになりつつあるなど、量子情報技術で期待されている材料である。今回は、その中でも特に注目されている、ダイヤモンド中の窒素原子(N)と空孔(V)の対がつくるNV中心の電子スピンと窒素原子15がもつ核スピンを用いている。

さらに、今回のアーキテクチャ・素子提案では、量子計算に必要となる素子の量子制御を1つずつ追い、それらをすべて統合したシステムとしての動作の評価にも成功している。また、これら量子制御の解析や、システム動作の評価は、タスクが変わっても変化しないので、解く問題によらず適応できる。そして、提案されている素子は、現在の技術レベルで実現化が可能であることが計算上示されており、すでに実現化に向けた実験も進められている。現在の世界最大級の計算機を凌駕するような大規模な量子コンピュータを組み立てるには、精度の改善が必要な部分が一部あるものの、最近の急速な材料や加工技術、光制御の発達からして、十分に現実的な数値となっている。このように、素子の構成が小型化、集積化、大量生産に向き、段階的な開発によって将来の大規模化へ拡張が可能な仕組みができていることは、今後の開発に意義があるとコメントしている。

今後は、ウィーン工科大学で進められている実現化実験のサポートを継続し、提案の実現化を目指す。同時に、詳細な量子制御の解析とシステムの改良により、実現化へ向けて理論的な改善も行っていく。また、今回の論文が提案する、光を用いてNV中心の電子スピン間にエンタングルメント共有させる方法によって、量子通信へ拡張が期待できるため、今後はこのような課題にも取り組んでいく予定としている。