京都大学(京大)は6月12日、イヌ科動物の顔の色彩パターンと、同種の仲間を見つめる時間の長さなどを比較することで、ハイイロオオカミが視線を使って仲間とコミュニケーションしている可能性が高いことを明らかにしたと発表した。

同成果は、同大 野生動物研究センター長である幸島司郎 教授と同センター教務補佐員の植田彩容子氏らによるもの。詳細は米国科学誌「PLOS ONE」に掲載された。

オオカミの目は、明るい色の虹彩の真ん中に黒い瞳孔が浮かぶ目玉マークのようになっており、「視線」が分かりやすいようになっている。研究グループでは、そうした分かりやすさの理由として、視線をコミュニケーションに用いているのではないかと考え、今回、イヌ科動物の顔色彩パターンと仲間をみつめる行動などの比較を行ったという。

具体的には、イヌ科動物の目周辺色彩パターンの比較を実施。イヌ科動物の目の各部位のコントラスト(目の周りの縁どりや毛の色、瞳孔、虹彩)を比較したところ、イヌ科動物の目の周辺の色彩パターンは3タイプに分けられることを発見。オオカミは、目の中の瞳孔の位置がキツネの仲間などのタイプやタヌキ、ヤブイヌなどのタイプとは異なり、目の中の瞳孔の位置が分かりやすくなっていることが示された。

さらに、こうした色彩パターンと視線を使ったコミュニケーションの関係性を調べるために、それぞれのタイプと該当する種の社会構造の関連性を調査。その結果、オオカミのタイプの色彩パターンは3頭以上の群れで生活する種に多く、キツネなどの仲間のタイプは単独もしくはペアで生活する種が、そしてタヌキやヤブイヌなどのタイプは、群れ生活と単独生活の種が同程度含まれていることが判明したほか、群れ生活する種の中でも、群れで協力して獲物を狩る種は、単独で獲物をとる種よりも虹彩の色が明るく、より視線が目立つことも分かったという。

また、ハイイロオオカミ、フェネック、ヤブイヌという3タイプの動物が、相手に顔を向けて体を静止させ、群れの仲間をじっと見つめる行動(凝視行動)の長さを比較した結果、オオカミが最も長く(平均3.3秒)、次いでフェネック(平均2.0秒)、ヤブイヌ(平均1.4秒)と虹彩パターンが強調されるタイプの方がより長いことが判明したとのことで、研究グループでは、これは相手の視線を読み取る時間が長いだけでなく、視線を相手に読み取ってもらうために自分の視線を表示する時間が長いことを意味していると説明する。

なお、今回の成果について研究グループでは、オオカミだけでなく、オオカミが家畜化されたイヌへと変化していく過程で、視線を使ったコミュニケーションが発達している人間とともに暮らしていくためにこの能力が活用された可能性があり、イヌの行動をより深く理解することにもつながることが期待されるとコメントしている。

ハイイロオオカミ

イヌ科動物の目の周辺の色彩パターン。オオカミはAタイプ。顔の中の目の位置、目の中の瞳孔の位置がともにはっきりしている。キツネやその仲間はBタイプ。顔の中の目の位置だけははっきりしている。タヌキやヤブイヌなどはCタイプ。顔の中の目の位置も目の中の瞳孔の位置も分かりにくい。そのため視線の分かりやすさはA>B>Cとなる