九州大学は6月9日、マスト細胞と呼ばれる白血球が、ヒスタミンなどのアレルギー反応を引き起こす化学物質を放出する過程で、タンパク質「DOCK5」が重要な役割を果たしていることを解明したと発表した。
同成果は同大 生体防御医学研究所の福井宣規 主幹教授らによるもの。詳細は2014年6月9日(米国時間)に米国科学雑誌「Journal of Experimental Medicine」オンライン版に掲載された。
アレルギー反応は、体内でIgE抗体の受容体「FcεRI」が抗原とIgE抗体により架橋されると、細胞内の分泌顆粒が細胞表面へ輸送され、顆粒の中に含まれるヒスタミンなどが放出される「脱顆粒反応」が引き起こされて生じることが知られている。これまでの研究から、分泌顆粒が微小管に沿って運搬されることまでは分かっていたが、微小管の動きがどのようにして制御されているかについては良く分かっていなかった。
また、研究グループはこれまでの研究から、「DHR-2」と呼ばれる領域を介してシグナル分子「低分子量Gタンパク質」に会合し、その活性化を誘導するDOCKファミリの一員であり、低分子量Gタンパク質の一種「Rac」のスイッチを「ON」にする「DOCK5」の免疫システムにおける役割として、マスト細胞に発現することを見いだしており、今回の研究は、アレルギー反応におけるその役割の解析に向けて実施されたという。
具体的には、DOCK5タンパク質の機能の解明に向け、DOCK5を発現しないように遺伝子操作したマウス(DOCK5ノックアウトマウス)と通常のマウス(野生型マウス)を用いて実験が行われた。この結果、野生型マウスをIgE抗体で感作し、抗原を投与したところ、強いアレルギー反応(アナフィラキシーショック)が引き起こされ、体温が低下することが確認されたが、DOCK5ノックアウトマウスでは、アレルギー反応が抑制され、血清中のヒスタミン値も上昇しないことが確認されたとのことで、これにより、DOCK5はマスト細胞で機能し、アレルギー反応を制御していることが示されたこととなった。
さらに詳細な解析を行ったところ、DOCK5を欠損したマスト細胞では、ヒスタミンといったアレルギー反応を引き起こす化学物質の放出、微小管の動きが低下することでうまく起こらないことを確認したとする。
そこで、このメカニズムの探索を行った結果、DOCK5はRacの活性化というこれまで知られていた機能とは無関係に、Nck2やAktといった別の分子と会合し、微小管の動きを制御するGSK3βの働きをコントロールすることで、脱顆粒反応に重要な役割を果たしていることが分かったという。
なお、研究グループでは、現在、多くのアレルギー治療薬としてヒスタミンの働きを抑える薬剤が用いられているが、その効果は限定的であるが、今回の成果を活用することで、DOCK5を標的としたアレルギー反応を根元から断つことが可能な薬剤の開発につながることが期待されるとコメントしている。