古生代(4億7千万~4億8千万年前)の植物上陸は地球史を転換し、生物多様性をもたらした起爆剤だった。その進化の一端が遺伝子でわかった。藻類と陸上植物の中間的な存在である車軸藻植物門「クレブソルミディウム」のゲノムを解析し、藻類から陸上植物に至る遺伝子の進化過程を、日本のグループが解明した。生物の教科書に記載されるような結果で、遺伝子レベルから植物の上陸がどのように起きたのかを示す成果として注目される。

図1. 15植物種の遺伝子を、藻類特有な遺伝子、陸上植物特有な遺伝子、共通している遺伝子、その生物種にしかない遺伝子に分類しグラフ化した。(提供:太田啓之東工大教授)

東京工業大学バイオ研究基盤支援総合センターの堀孝一CREST研究員、地球生命研究所の黒川顕教授、太田啓之教授らが、かずさDNA研究所、国立遺伝学研究所、理化学研究所、東京大学などと共同で研究した。2014年5月28日付で英科学誌ネイチャーコミュニケーションズに発表した。

図2. 他植物とのゲノム比較から推定される遺伝子の多様性の獲得(提供:太田啓之東工大教授)

図3. 植物の陸上進出と車軸藻植物の関係(提供:太田啓之東工大教授)

図4. (左)はクレブソルミディウムの顕微鏡写真、(右)はコンクリート片に生育させたクレブソルミディウム(提供:太田啓之東工大教授)

車軸藻植物のクレブソルミディウムは、湿ったコンクリート壁にも見られ、陸上の大気中で生育できる藻類の一種。陸上進出前の準備段階にある原始的な植物の特性が残っているとみて、ゲノムを解読した。ゲノム情報から約1万6千個の遺伝子を推定し、ゲノム解読が終わっている他の藻類や陸上植物と比べた。

クレブソルミディウムは単純な藻類にもかかわらず、陸上植物に特有と考えられていた遺伝子やタンパク質ドメイン(共通構成構造)を数多く持っていた。研究グループは、遺伝子全体の比較を基に、藻類から車軸藻の祖先が生まれ、原始的な陸上植物を経て、過酷な陸上環境に適応したコケやシダ、裸子植物、種子植物が出現するまでの進化の過程で、陸上植物に特徴的な新しい遺伝子がどのように増えたか、を跡づけた。

さらに、緑藻からクレブソルミディウムの祖先が生まれる際に獲得された遺伝子を解析した。陸上植物とクレブソルミディウムのみが持つ1238遺伝子(7.7%)の機能を予測すると、転写因子、情報伝達、ストレス応答、細胞壁、植物ホルモンに関する遺伝子が多かった。

成長やストレス応答に関わる植物ホルモン、多細胞化や、陸上植物に特有な光合成の環境応答に関係する遺伝子を持っていた事実からは、クレブソルミディウムが既に、乾燥や強い紫外線、大きな温度変化、重力などの厳しい陸上環境に適応する出発点となるような優れた生物システムを備えていたことがうかがえる。

研究グループを率いる太田啓之教授は「解読したゲノム情報は、生命が陸上に進出し発展を遂げた過程を詳細に解明するための重要な基盤となる。また、クレブソルミディウムは藻類と陸上植物の中間的な性質を持つため、両方の架け橋として、その遺伝子情報を藻類の培養技術、物質生産技術に応用できる」と期待している。

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