国土交通省や東京大学先端科学技術研究センターなどで構成されている渋谷駅周辺地域ICT活用検討協議会は、3月25日~5月31日の期間、渋谷駅周辺の地下通路でスマートフォンを活用した実証実験を行なう。

協議会による説明会では、協議会で会長を務める東京大学 先端科学技術研究センターの教授で工学博士の森川 博之氏や、協議会を管轄する国土交通省 東京国道事務所長を務める西尾氏、実証実験に参加する東京地下鉄(東京メトロ)の代表取締役 副社長 安富 正文氏らが説明を行なった。

東京大学 先端科学技術研究センター 教授 工学博士 森川 博之氏

国土交通省 東京国道事務所長 西尾氏

東京地下鉄 代表取締役 副社長 安富 正文氏

この実証実験は、地下通路においても地上のようにスマートフォンユーザーの位置を把握することで、経路を案内できるようにしようという目的で行なわれている。一方で、利用者課題だけではなく、渋谷駅という交通事業者が入り組んだ施設における共同社会施策への取り組みを滞りなく進めることができるのかを検証する目的もあるという。

実際に、同協議会は、国土交通省や東京都、渋谷区だけではなく、NTTドコモとKDDI、ソフトバンクモバイルの通信事業各社、東京急行電鉄(東急)や東日本旅客鉄道(JR東日本)、東京地下鉄(東京メトロ)、京王電鉄、日本空港ビルデングなどの交通事業各社が名を連ねている。

実験エリア

実証実験では、2つの方式を利用して、地下空間における位置測定を行なう予定だ。1つはBluetoothによる位置測定技術、もう一方はARマーカーの活用による位置測定方式で、それぞれUIも異なる。KDDIがアプリ開発を行なっており、スマートフォンに最適化されたUIを実現している。

Bluetoothは、Bluetooth Low Energyと呼ばれる機能を利用しており、Bluetooth発信器「タグキャスト」を利用して位置の特定を行なう。タグキャストは、非常にコンパクトな筐体ながらも、ボタン電池で1年間稼働するバッテリー性能を持つ。そのため、実証実験期間中は、発信器を交換することなく利用できるとみられており、設置も容易だ。

渋谷の地下街に設置されるタグキャストは63個で、一定間隔に置かれているのではなく、電波干渉などを避ける形でそれぞれの場所に即した配置が行なわれる。この配置こそ、実証実験の2つ目の目的である事業者間の折衝という点で、「我々鉄道事業者は、鉄道無線など様々な無線機器を利用していることから、センシティブになっている事業者さんもいる。いくら社会インフラの構築を目指そうとしても、自社に影響がある形になっては困るという事もあるだろう。そのような背景も含めて、実証実験で課題の洗い出しを行なっていきたい」(東京メトロ・安富氏)。

今回利用されたBluetooth発信器「タグキャスト」

この発信器は最大10m、最小1m程度の間隔で任意に置くことができるため、利用者の移動状況などを詳細に把握することが可能だ。

それに対してARマーカーは、Bluetoothと異なり、利用者がカメラを利用してポスターを撮影することで、自分が向かいたい場所を認識する操作が必要だ。Bluetoothとは異なるメリットとして、カメラで現実空間を通して、自分が向かいたい経路が表示されるため、地図を見ることが苦手な人でもわかりやすい点が挙げられる。

ARマーカーのポスターは45カ所に設置されており、こちらも地下街の各店舗、事業者との折衝が必要だという。ポスターの問題点として安富氏は「ポスターを貼ることで、利用者が通路に立ち止まってしまい、乗り換えをする人を邪魔して渋滞が起きてしまう可能性がある」と話す。

ARマーカーのポスターは可愛らしいデザイン

BluetoothはiPhone版アプリ、ARマーカーはAndroid版アプリに限定されており、それぞれ利用機種は限定されている。詳しくは渋谷駅周辺地域ICT活用検討協議会Webサイトを参照していただきたい。

委員会としての一般ユーザー参加数目標は「目安はない」(森川氏)だが、スマートフォンの最新技術を活用した一般参加型の社会実験は滅多にない機会だ。2020年の東京オリンピックに多数来日すると予想される訪日外国人への案内方法として、利用される可能性があると協議会委員は口を揃える。渋谷に立ち寄った際は、是非参加してほしい。