東京工業大学(東工大)と山梨大学、広島大学は3月3日、新規ビスマス酸化物超伝導体「(Na0.25K0.45)(Ba1.00)3(Bi1.00)4O12」を発見したと発表した。

同成果は、山梨大 クリスタル科学研究センターの熊田伸弘教授、田中功教授、東京工業大学 応用セラミックス研究所の東正樹教授、広島大学大学院 理学研究科の黒岩芳弘教授らによるもの。詳細は、ドイツの科学誌「Angewandte Chemie International Edition」オンライン版に掲載された。

超伝導体は、リニアモーターカーやMRIなどで用いられている重要な機能材料だが、超伝導を示す温度が極低温であるため、冷却に膨大なエネルギーが必要となる。この問題を解決する夢の材料"室温超伝導体"を目指し、これまでに銅系超伝導体、ビスマス系超電導体、鉄系超伝導体など、様々な種類の高温超伝導体が開発されている。また、高温超伝導発現メカニズムの解明は、科学的に重要な未解決問題の1つとなっている。

今回の研究では、人工水晶などの合成に用いられている水熱反応を用いることで、ナトリウム、カリウム、バリウム、ビスマス、酸素で構成されるペロブスカイト化合物を合成し、超伝導転移を27Kで確認した。また、圧粉体においてゼロ抵抗を確認した。さらに、電子線回折とSPring-8を用いた高輝度放射光回折実験により、これまでに報告されているペロブスカイト型超伝導体とは異なり、A-サイトオーダーダブルペロブスカイト型構造と呼ばれる、長周期の結晶構造を持つことが分かった。この構造中では、ABO3で表されるペロブスカイト型酸化物のAサイトが、バリウムを占めるサイトと、ナトリウムもしくはカリウムが占めるサイトの2種類になり、通常のペロブスカイト型構造の2倍の周期性を持つ。A-サイトオーダーダブルペロブスカイトは磁気抵抗効果、負の熱膨張など多彩な機能を示すことから近年注目を浴びている物質群だが、超伝導が見つかったのはこれが初めてだという。また、無機材料としては比較的低温の220℃で合成できること、および毒性の強い元素が使われていないことも、この新規超伝導体の優れた特徴であるという。

この新規超伝導体の転移温度は低温だが、組成や結晶構造を調整することにより、さらなる超伝導転移温度の向上や、長周期規則性を持つ結晶構造と超伝導発現との関連性を解明することで、高温超伝導体探索の新たな指針となることが期待できるとコメントしている。

合成された新規超伝導体の磁化率曲線。27Kでの超伝導転移が確認できる

ペロブスカイト構造とA-サイトオーダーダブルペロブスカイト構造の模式図。ペロブスカイトは1種類のAサイトを持つが、A-サイトオーダーダブルペロブスカイト構造ではAサイトがA'とA"サイトの2種類のサイトを持つことで、2倍の周期構造を持つ。今回の研究で発見された超伝導体では、A'サイトにはナトリウムとカリウム、A"サイトにはバリウムが占有している