東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)は2月14日、名古屋大学 超高圧電子顕微鏡施設との共同研究により、自動車の排気ガスの浄化触媒として有望な「ナノポーラス触媒」において、孔が拡大して劣化していくメカニズムを明らかにするのと同時に、欠陥をあらかじめ導入することで劣化速度が抑えられる現象を原子レベルで解明したと発表した。

成果は、東北大 AIMRの藤田武志 准教授、同・陳明偉 教授らの共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、2月7日付けで米科学誌「Nano Letters」オンライン版に掲載された。

自動車用排ガス触媒は、排気ガスから汚染物質を取り除き、空気を浄化するための重要な物質であり、時代を追うごとに排出ガス規制が厳しくなってきているので、さらなる高性能化が求められている。自動車排ガス触媒は、さまざまなナノメートルサイズの粒子と「助触媒」(触媒に少量加えることによって性能を向上させる物質)を用いた「不均一系触媒」が主流だが、使用過程でナノ粒子同士が合体してしまい、全体の大きさが5nm以上になると触媒活性がほとんどなくなるという問題があった。

そうした中、近年になって見出されたのが、機能性材料であるナノポーラス触媒だ(画像1)。同触媒はナノサイズの細孔がランダムにつながったスポンジ構造を持つのが特徴で、さらには合金の腐食のみで作製できるため量産に適しており合金設計も容易であり、かつ助触媒を必要としないため材料の組み合わせを選ばないなど、既存のナノ粒子触媒の抱える多くの課題を一挙に克服できる可能性を秘めている。

一方、ナノポーラス触媒はナノ粒子触媒と違ってサイズの影響を受けにくいものの、構造の粗大化(孔のサイズが大きくなること)によって性能が劣化していくという課題があった。しかも、その劣化メカニズムについてはまだ十分に解明されてはいなかったのである。そこで研究チームは今回、ガス環境セルを備えていることでガス雰囲気下での観察が可能な名大の「反応科学超高圧走査透過電子顕微鏡」を用いることで、粗大化(劣化)過程をその場観察し、原子レベルで明らかにすることが試みられたというわけだ。

画像1。ナノポーラス金属の3次元立体図

今回の研究では、ナノポーラス触媒として代表的な「ナノポーラス金」が用いられた。この触媒は、室温でCO浄化反応であるCO酸化反応(CO+1/2O2→CO2)が起こる有望な触媒だ。ナノポーラス金触媒は、画像2のように反応時間に伴って、組織が粗大化して劣化していく。

画像2。CO酸化反応時間に対して、ナノポーラス構造の粗大化を観察したもの。挿入図はそれぞれの変換率に対応した走査顕微鏡像

画像2からは、構造の粗大化が触媒の劣化につながる主原因であることはわかるが、実際どのような過程で粗大化していくのかは明らかではない。そこで活躍したのが、ガス環境セルを備えた反応科学超高圧走査透過電子顕微鏡である。同顕微鏡を用いて、CO酸化反応が起こっているその場が原子レベルで観察された。画像3~5は、孔の粗大化過程を追って観察したものだ。

ナノ孔の反応時間経過を観察したもの。画像3(左) (1):反応前。画像4(中央) (2):反応中盤(表面の結晶方位と双晶(点線)を示している)。画像5(右) (3):反応終盤(最後に孔がつながる)

この詳細な観察の中で、(1)「表面拡散」(結晶表面で原子が移動する拡散のこと)を伴って粗大化が起こっていること、(2)「面欠陥」として知られる双晶がそのピン留めに有効に作用することが判明。画像6はその様子を撮ったものだ。双晶の3重点(赤丸)でピン留めされ、これがなくなると表面拡散が素早く引き起こされる。この双晶のピン留めのために、孔が均一に拡大せずにすこし横長になっている(画像4)。双晶がない所はこのようなピン留め効果は観察されなかった。

なお面欠陥とは、面状の広がりを持った2次元的な原子配列の幾何学的な乱れをいい、双晶とは、面欠陥の1種で特定の面や軸に関して対称となるような原子配列を持つ境界を指す。

画像6。双晶の3重点によるピンニング過程の観察。3重点がなくなると表面拡散が素早く起こり、孔が少しずつ拡大していく

今回の成果は、ナノポーラス触媒の劣化過程を原子レベルで明らかにした結果であり、また、結晶欠陥による「ピン留め効果」は、ナノ構造の安定化に寄与するため、ナノポーラス触媒だけでなく不均一系触媒全般に適用できる重要な材料設計指針であり、恣意的に導入することによって触媒のさらなる高性能化が期待できるとしている。