中央大学(中大)と慶応義塾大学(慶応大)は2月13日、ReRAMによる高速SSD技術、および高速車載ネットワーク技術を開発したと発表した。
同成果は、中大 理工学部の竹内健教授、慶応大 理工学部の黒田忠広教授、石黒仁揮准教授らによるもの。詳細は、2月9日~13日に米国サンフランシスコで開催されている「国際固体回路会議(ISSCC) 2014」にて発表される。
現在、スマートフォンなどのモバイル機器にはフラッシュメモリを記憶媒体としたSSDが使われている。SSDは、機械的に駆動する部品がないため、高速に読み書きでき、消費電力も少なく衝撃にも強い。このため、頻繁にアクセスされるプログラムやデータを保存する用途で幅広く使われている。近年、SSDはモバイル機器やPCに加え、データセンターの記憶装置(ストレージ)としても使われ始めている。高速でリアルタイムの処理を必要とするビッグデータのサービスを実現するには、現在に比べSSDを桁違いに高速化しなければならない。
さらに、高速でリアルタイムの処理を必要とするシステムの実現には、信頼性と性能が高いネットワークも必要となる。特に、複数のモジュールを接続して複雑なシステムを構築するためのコネクタ(接続部分)には、高い信頼性の確保、および高性能化が求められる。例えば、自動車の無人自動運転システムには、センサ、電子制御機器(ECU)、メモリなどの多数のデバイスを接続する高速な車載ネットワークが必要となる。2020年には、現在より3倍多い300個程の電子機器を現在より10倍高速な100Mbpsでデータ接続する必要があると予測されているが、従来のコネクタでは、高速な信号の波形がゆがむため、これ以上の高速化が困難と考えられている。また、現在車載ネットワークで使用されているコネクタは、振動による通信障害(瞬断)を防ぐ重厚な耐震機構が必要なため、ジャンクションボックスに集約、固定されている。その結果、固定されているコネクタまで配線を余分に延伸する必要があり、重量増加や燃費の悪化を招いてきた。これに対し、高い信頼性の確保、および高性能化を有する車載ネットワークを構築するためには、高速でかつ高い信頼性を持ったコネクタの開発が重要となる。今回、このような背景の下、研究グループは2つの技術を開発した。
SSDの記憶媒体であるフラッシュメモリは容量が大きい利点があるものの、書き換えが1ミリ秒と遅い。一方、抵抗変化型メモリ(ReRAM)は100ナノ秒と、フラッシュメモリの1万倍も高速に書き換えが可能という特徴がある。研究グループは、これまで高速で低電力なReRAMと大容量のフラッシュメモリのそれぞれの利点を生かすため、両者を3次元に組み合わせたハイブリッド構造のSSDを提案してきた。しかし、ReRAMを実用化するためには、書き換えが高速な反面、読み出しやデータ保持中にデータが壊れやすいという問題があった。
今回の研究では、ReRAMに記憶したデータのエラーを訂正する誤り訂正回路システムを開発し、エラーを80%削減することに成功した。ReRAMは抵抗の大小によりデータの記憶を行うが、書き換えを行うに連れて、ReRAMが疲労し特性が複雑に変化し、保持したデータが壊れてしまう。そこで、ReRAMの特性の変化に追随して、常に最適な条件で書き込み、読み出しを行えるように、読み出しレベルや誤り訂正の強度、およびメモリを書き込む前に加える変調の仕方などを動的に変化させる技術を開発した。その結果、ReRAMのエラーを80%低減することに成功した。
しかし、ReRAMは単体のメモリセルでは100ナノ秒程度で書き込みが可能だが、Gビット級に大容量化すると、メモリセルの特性のバラつきにより、書き込み時間が20マイクロ秒程度まで伸びてしまうという問題があった。そこで、提案する誤り訂正回路により、書き込みにくいメモリセルを使わないように制御することで、書き込み性能を33倍高速化(書き込み時間、約500ナノ秒)することに成功した。さらに、1つのメモリセルに3ビットで記憶するTLC(Triple Level Cell)フラッシュメモリに対しても、メモリセルに書き換えが行われメモリが疲労するに従って、記憶するデータ量を3ビットから2ビット、1ビットと変化させる手法を開発し、フラッシュメモリの寿命を22倍長くすることにも成功した。高速なReRAMを活用することにより、SSDの性能は桁違いに高速化、低電力化され、ReRAMを用いたハイブリッドSSDは実用化に近づいたとしている。
また、現在の車載ネットワークに用いられるコネクタは、重厚な耐震構造を備え、ジャンクションボックスに集約、固定されている。このため、近くの電子機器同士を接続する場合でも、配線をジャンクションボックスまで延伸する必要があった。その結果、配線は不必要に長くなり重量が増す。加えて、コネクタを通過するたびに信号の反射やゆがみが発生するため、ネットワークの高速化も難しい。研究グループは、こうした課題の原因は、従来のコネクタが電極を圧着して接続する点にあると考えた。つまり、圧着による接続は、振動などの外力で電極が外れただけで通信が切断されてしまうために強固な耐震構造が必要になる他、インピーダンス(交流回路における電気抵抗)が急激に変化する接触面が存在し、信号の反射やゆがみが生じるため、高速化が妨げられているとした。
そこで、配線同士を物理的に非接触のまま電気的に接続できるクリップ型電磁界コネクタを考案した。同方法は、電極間の電磁界結合(電界と磁界を用いた電気的接続)で回路を接続するため、圧着という物理的な接触は必要ない。重厚長大な耐震機構のジャンクションボックスは不要になるためコネクタを軽小短薄にできる。また、配線の被膜の上から(被膜を破らずに)クリップのように配線を挟むことで回路を接続できるため、配線を最短経路とすることができる。
試算では、車の配線重量の30%を削減でき、燃費を1.2%改善できたという。さらに、機械式でなく電子式接続であり、インピーダンスを調整することで、従来と比較して20倍高速な280Mbpsの通信を実現した。この高速な通信能力を活かして、送信データに冗長性を加え、受信側で誤り訂正ができる技術、送信データにタイミング情報を加え確実に同期受信できる技術、通信周波数を高くして放射ノイズの周波数成分を高くする技術を開発し、ノイズ耐性を向上し不要ノイズ輻射を抑制した。これにより、国際標準化機構(ISO)および国際無線障害特別委員会(CISPR)の定めるノイズ耐性、および不要ノイズ輻射に関する規格を満たすことに成功した。新たに開発したコネクタは、スマートフォンなどの携帯情報機器にも最適としている。
リアルタイムに生じるビッグデータを活用したサービスを実現するためには、スマートフォンや自動車などセンサを用いて環境データを収集する端末と、データを処理するデータセンター、双方の桁違いの高性能化、高信頼化が求められている。今回の成果は、データセンターと自動車という過酷な環境でデータを収集、処理するシステムにおいて、軽量、高性能、高信頼、低電力、低コストを実現する。また、応用分野は、自動車の無人自動運転に限らず、動画像をやり取りするソーシャルネットワークサービス(SNS)、台風や竜巻など気象災害の予測、廃棄物・欠品ゼロの食品流通システムなど、高速でリアルタイム性に優れた様々なビッグデータを活用したサービスの実現に寄与することが期待されるとコメントしている。