東京大学(東大)は1月27日、2014年1月26日から30日にかけて米国サンフランシスコにて開催されている国際学会「MEMS2014(The 27th IEEE International Conference on Micro Electro Mechanical Systems)」において、3つのセンサデバイスに関する発表を行うことを発表した。
1つ目のセンサデバイスは東大の下山勲 教授、九州大学の安達千波矢 教授、NMEMS技術研究機構の安食嘉晴 交流研究員(オリンパス)らによる「有機半導体ナノ構造を用いた赤外線検出器」で、高コストなゲルマニウムや水銀カドミニウムテルルなどを用いずに、低コストなシリコンと有機半導体で、高感度な赤外線検出器を実現したというもの。
このタイプの検出器は、金属に光を照射することで発生した電流を感知して赤外線を検出する方法を用いており、検出効率を上げる方法として金属表面に数十nmの構造(ナノ構造)を作り、赤外線を効率よく検出器に吸収させる方法がとられている。しかし、こうしたナノ構造を作製するためには、電子線描画(EB)法や、収束イオンビーム(FIB)法といった高価な製造装置と単品加工法を使うため量産ができず、しかも製作コストが高いという問題が存在していた。
今回の研究では、シリコン基板上に有機半導体(銅フタロシアニン:CuPc及び3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物:PTCDA)のナノ構造を自己組織化法で形成し、そのナノ構造の上に金属(金:Au)を成膜するだけで、金属ナノ構造体を得るという方法を考案。同手法では、温度などの有機半導体の成長条件を決めるだけで、自動的にナノ構造が形成されるため、高価な設備が不要となり、量産を低コストで実現できるようになるという。
実査に作製したデバイスを用いて、検出効率を測定したところ、ナノ構造がない赤外線検出器の出力と比較して、波長1200nmの赤外線に対する効率が約10倍向上したことが確認されたという。
2つ目のセンサデバイスは、東大の下山勲 教授、同大大学院 情報理工学系研究科の金子智則 大学院生(修士課程1年)らによる「筋音センサ」で、筋肉の収縮によって生じる圧力波(筋音)を効率よく計測することができるMEMSセンサを開発したという。
筋音は、筋繊維の皮膚の発汗の影響によらずに筋繊維の活動を計測できることから筋電計に代わる筋活動計測法として近年注目が集まっている。しかし、従来の筋音計測では、マイクロフォンを用いていたことから、皮膚とマイクロフォンの間に空気層があり、圧力波が皮膚表面で体内に反射し外に出ないという問題があった。
そこで今回、圧力センサと皮膚表面の間に液体を満たし、その液体と空気の境界面に片持ち梁を配置し、筋肉の収縮によって生じた圧力波の皮膚表面での反射を抑えることにより、効率のよい筋音の計測を実現したという。
この構造により、体内を伝播した圧力波を圧力センサまで伝えることができるようになるとのことで、実際に試作した筋音センサおよび圧力センサチップを用いた実験では、ハウジング内に液体を満たした場合に筋音が計測できること、ならびに液体をとりさると筋音はほとんど計測されないことを確認したという。
3つ目のセンサデバイスは東大の下山勲 教授、同大大学院 情報理工学系研究科のディン ホアン ジャン大学院生(修士課程2年)らによる「任意の周波数帯域で放射可能な液中超音波発生素子」で、金属発熱体の上に絶縁性の液体を置くことで、任意の周波数帯域の超音波を体内や導電性の海水を含む液中に放射する技術を実現したという。
超音波エコーは現在、医療や工業分野で幅広く用いられているが、それらの超音波発生素子の多くは、電圧を加えることで変形する圧電素子を用いている。しかし、圧電素子は特定の共振周波数でのみ大きく変形して超音波を放射するため、単一素子から任意の周波数の超音波を極めて短時間だけ放射するといったことは困難であった。
そこで研究グループは、これまで研究を進めてきた液体を高分子膜で封止するPoLD(Parylene on Liquid Deposition)技術を応用することで今回、金属発熱体の上にシリコンオイルを配置した液滴超音波発生素子を実現したという。同素子はシリコンオイルを周期的に加熱することで、超音波を生み出すが、この方法は、構造の共振現象を利用する必要がないため、任意の周波数帯域の超音波を極めて短時間で放射することが可能だという。
実際のデバイスでは、直径10mmの金属発熱体上にシリコンオイルを封止し、発熱体と外部液体を絶縁した状態で、水中に超音波を放射することができる液滴超音波発生素子を実現したという。