東北大学と科学技術振興機構(JST)は1月22日、名古屋大学(名大)の協力を得て、「有限長カーボンナノチューブ(CNT)分子」の新しい「幾何学的指標」を提案したと共同で発表した。
成果は、東北大大学院 理学研究科化学専攻 博士後期課程学生の松野太輔氏、同・一杉俊平 助教、名大大学院 多元数理科学研究科の内藤久資 准教授、東北大 原子分子材料科学高等研究機構の佐藤宗太 准教授(ERATO磯部縮退π集積プロジェクト グループリーダー)、同・小谷元子 機構長、同・磯部寛之 教授(大学院理学研究科、ERATO磯部縮退π集積プロジェクト研究総括)らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、1月18日付けで国際純正・応用連合(IUPAC)発行の学術誌「Pure and Applied Chemistry」に掲載された。
CNTは、飯島澄男教授(名城大学)が1991年に発見した、ダイヤモンド、非晶質、黒鉛、フラーレンに次ぐ5番目の炭素材料で、六角形に並んだ炭素原子がネットワーク化し筒状となったナノ物質である(画像1)。CNTはその丸まり方、太さ、端の状態などによって、電気的、機械的、化学的特性などに多様性を示すのが特徴だ。現在、入手可能なCNTはさまざまな構造を持つものの混合物であり、IUPACにより「分子種」として定義される物質である。分子種とは異なる構造を持つ分子の混合物のことをいい、同一の構造を持つ単種の分子からなる物質は分子性物質と呼ばれる。
CNTの構造は規則性が高く、CNT上の炭素原子の並び方を表現する幾何学的指標は、1992年にG.Dresselhaus教授、M.S.Dresselhaus教授および斎藤理一郎教授(東北大学)らによって提唱された幾何学的構造指標で、現在のCNTに関連した科学・技術研究において広く活用されている。
例えばその内の「カイラル指数」と呼ばれる指標は、CNT研究において広く汎用されており、無限に長いCNT内での炭素原子の並び方を明示するため、炭素原子ネットワークがどのように並んでいるかを、(n,m)という座標で表し、CNTの特性を司っている構造を議論するための重要な基盤だ(画像2・3)。
ごく最近、ボトムアップ化学合成の発展により、一義的な構造と有限な長さを持った「有限長CNT分子」が登場し始めた。磯部教授らが2011年以来報告したものだけでも、その数はすでに16種類にも上っている(画像4・5)。これらの有限長CNT分子の内、カイラル指標を共通としながら、長さのみが異なる分子が存在していたことが、今回の新しい幾何学的指標の提案に至る契機となったという。これまでは、長さが異なることはわかっていながら、その長さを幾何学的に比較する尺度(ものさし)がなかったのだ。
今回、研究チームが提唱した新しい幾何学的指標は、「tf」で表される「有限長指数(Length index)」、「Fb」で表される「結合充填指数(Bond filling index)」、「Fa」で表される「原子充填指数(Atom filling index)」の3種だ(画像2~4)。有限長指数はCNT分子の長さの幾何学的指標で、六角形ユニット(亀の甲)何個分の長さを持っているかが表されている。残る2つの「充填指数」は、有限長CNT分子の構造内にどれだけの化学結合、原子が満たされているのかを表したものだ。これらの3つの尺度により有限の長さを持つCNT分子の長さと構造を簡便に比較することが可能となるのである。
また研究チームは共同研究者に数学者を迎えることで、tf、Fb、Faが簡単な数式により表せることを示し、さらに新しい指標が誰にでも簡単に利用できるようウェブ上のアプレットとして提供を開始した(画像6)。Geometric measurement of finite SWNT moleculesとして一般にも公開されており、誰でも利用することが可能だ。
使い方は、次のようになる。(1)まず、カイラル指数と大まかな長さ目安を入力。(2)有限長CNT分子の両端の原子を指定(画面上クリックで指定可能)。(3)有限長CNT分子の満たされていない結合・原子を消去(画面上クリックで指定可能)、となっている。