リコーが主催している組み込みJavaコンテスト「RICOH & Java Developer Challenge Plus (デベロッパーチャレンジ・プラス) 2013」の最終選考会が2013年1月21日開催された。

同コンテストは、大学生を対象とし、リコー製品を1つ以上使ってJavaプラットフォームでのビジネスアプリケーションのアイデアを考え、その実装までを含めた開発技術を競おうというもの。6回目の開催となる今回は会場を従来のリコー大森事業所から、東京・お台場にある日本科学未来館に移し、1次選考を通過した10チームが自らのアイデアと技術を競った。

大人から子供まで、先端科学を楽しく学べる日本科学未来館。意外と知られていないがカンファレンスホールも有しており、学会や技術報告会といったさまざまなイベントに良く利用されている

最終選考に残った10チームの学校名/チーム名、システム名は以下の通り(順序は最終選考会での発表順)。

学校名 チーム名 システム名
和歌山大学大学院 たちうお アイディアルーム
立命館大学 クマー工房 AQUALIB
京都大学大学院 京都スターライト学園電算部 いちごフォン
神奈川工科大学 No Time ぷれすと!
産業技術大学院大学 Project寿司 agaconf!(あじゃ☆こん)
京都大学大学院 #31 Nikomaki
東京農工大学大学院 DLCL MAGAZINE DOLL
北見工業大学 北見工大医療画像処理研究室++ Cafe System
東海大学 IKS SkypEasy
関西学院大学大学院 チーム:ダイコラスタ ここっぴmaker

審査員は全員で9名。審査委員長は前回に続き、東京大学大学院 情報学環の坂村健 教授が務めたほか、今回は新たにフェリス女学院大学 国際交流学部の春木良且 教授や、開催地となった日本科学未来館の科学コミュニケーターである小沢淳氏などが審査員として参加した。

今回は、従来同様「グランプリ」、「準グランプリ」、「リコー賞」、「オラクル賞」の4賞が優秀チームに授与されたほか、抽選で選ばれた一般観覧者による参加者投票も行われた。

左からグランプリ、準グランプリ、リコー賞、オラクル賞の盾と副賞

リコー賞

「リコー賞」には、東海大学の3年生3人だけで構成されたチーム「IKS」のシステム「SkypEasy」が受賞した。同システムは、いつでもどこでも印刷したいというニーズに対応することを目指して開発されたもので、Skypeを使って、「.jpeg」や「.png」のような画像データのほか、「.java」「.c」などのプログラムデータ、「.doc」「.xls」「.ppt」などのOffice系データ、「.txt」「.cvs」といったテキストデータをpdfに変換して、MFPに送信して印刷を行おうというもの。

審査員からは、「リコーの主事業であるプリンティングサービスに一番近いビジネスモデル。スマートフォンの普及で、いつでもどこでも印刷したいというニーズが伸びている点にもマッチした」という評価がされていた。

システムの概要(左と中央)と、実際にMFPに向けてSkype経由でデータを送っている様子

オラクル賞

「オラクル賞」には、北見工業大学のチーム「北見工大医療画像処理研究室++」が開発したシステム「Cafe System」が受賞した。実は同チーム、前回も前身となるチーム「北見工大医療画像処理研究室+」として同賞を受賞しており、2年連続の受賞となった。

システムの概要としては、リコーの画像検索・O2Oサービスである「Clickable Paperサービス」を用いた次世代型広告システム。どちらかというと広告システムというよりも、広告ちらしやくちこみ広告補完システムとでもいうべきもので、紙媒体の広告が不得手なところと、デジタル広告の不得手なところを補わせ、カフェなどを個人事業として行っている人が手軽に広告ちらしなどでは伝えきれないオススメ情報などを伝えやすいようにしようという試みとなっている。

具体的には、Webページエディタの「Carbonara(カルボナーラ)」、Androidアプリの「Cream Puff(クリームパフェ)」、システムのサーバとなる「Cappuccino(カプチーノ)」の3つの構成要素でできており、「カルボナーラ」で各種のページの編集やタグ付、Webサイト名設定などを行い、利用者が気になった広告などを「クリームパフェ」で撮影すると、「カルボナーラ」で作成した情報を読みに行くというものとなっている。

審査員の1人で、オラクル賞のプレゼンターを務めた日本オラクルの阿部勢氏は、受賞理由について「日本オラクルでは組み込みJavaなどもIoTをコンセプトに掲げ取り組んでおり、今回の発表ではそういった部分に直接つながるようなものはなかったが、次世代JavaであるJava 8の標準リッチ・クライアント・プラットフォームとなるJavaFXの活用や開発環境としてNetBeansを使ってくれているであろうことが想像できた点を評価した」としている。

「Cafe System」を構成する3要素のうちの2つ(左が「Carbonara」、右が「Cream Puff」)。「Carbonara」ではアイコンのドラッグ&ドロップなどを行うだけで手軽にWebページの作成が可能となる

左側のカフェの画像をチラシと仮定し、それをAndroid上で動く「Cream Puff」で撮影すると、右側のようなWebページへと飛び、詳細を知ることができるようになるという仕組みとなっている

準グランプリ

「準グランプリ」を受賞したのは、京都大学大学院のチーム「#31」が開発したシステム「Nikomaki」。同大のマイコンクラブのつながりで構成されたリームで、リコーのUCS(Unified Communication System)と、2014年1月上旬にBBソフトサービスが戦略的パートナーシップ契約を締結し、国内での販売決定が話題となった「Leap Motion」を組み合わせ、新しいコミュニケーションを実現するシステムを提供しようというものとなっている。

同チームが主に想定した用途としては、UCSを用いた多拠点間での会議などでの挙手や集計、参加者間の交流などとしており、会議参加者1人1人にLeap Motionを持たせ、参加者単位でのコミュニケーションに活用してもらおうというものとなっている。

マウスやキーボードを用いると、UCSのシンプル性が失われてしまうという点と、チームの代表者の言葉を借りると「Leap Motion」を使ってみたかった、とのことで、こういったシステムが考案されたという

受賞理由について、フェリス女学院の春木教授は、「セレンディピティという言葉があるが、革新を生み出していくためには、与えられたリソースをどうこうするというのではなく、人々は何をすれば感動するのかを見つけていく必要がある。そういった意味ではLeap Motionを触ってみたかったという動機は評価できる。しかし、会議でこういったものを使うかというと、もっと違う領域で、こういったシステムを求めている人がいるはず。そういった意味では、イノベーションの芽というか頭が出てきたが、そういうさまざまな角度で物事を見れる目を持ってもらいたいという意味で準グランプリとした」としている。

Nikomakiによる会議の様子。分かりづらいが、右のテレビ画像の下部にLeap Motionがあり、そこの上空にて手でさまざまなジェスチャーを行うことで、UIを操作したり、挙手の代わりにしたりすることができるというものとなっている

グランプリ

「グランプリ」を受賞したのは、関西学院大学大学院のチーム「チーム:ダイコラスタ」のシステム「ここっぴmaker」。実は同チーム、前回大会では準グランプリを受賞しており、今回は"審査員をじぇじぇじぇ"と驚かせ、前回の無念を"倍返し"することでグランプリを狙うという意気込みを発表前に見せており、まさにそれを体現した結果となった。

システムの「ここっぴmaker」の語源は、卵を表すフランス語の赤ちゃん言葉「le coco(ルココ)」と、「プログラマ(Programmer)」の頭文字のPを組み合わせたもので、"プログラマの卵を育てる"という意味が込められているという。

一般的なプログラミング教育のイメージというと、子供向けであってもコンピュータ(PC)を前にしてというものがあり、Massachusetts Institute of Technology(MIT:マサチューセッツ工科大学)のメディアラボが開発した「Scratch」などが有名だが、近年、そういったPCを前にしないで、プログラミングの基礎を学ぼう、という動きが世界で起きており、海外ではKickstarterでそういったものを作る資金調達を行う試みなどが見られるようになっている

ここっぴmekarもそうしたPCを使わないということを意識しつつ、8歳以下の子供を対象に、プログラムに親しみ、モノを作る楽しみを味わってもらうために開発されたもので、"はさみ"と"のり"、そしてMFPとプロジェクタなどのモニタがあれば利用可能なものとなっている。具体的には、さまざまな動き(アニメーション)に対応した15種類の紙を切り取り、専用のシートに貼っていき、それをスキャナで読み込ませることで、アニメーションとしてそれを見ることができるという仕組みとなっている。

15種類のパーツを組み合わせるだけで簡単にアニメーションを作ることができる。中央のパーツ群を見ていただくとお分かりいただけると思うが、基本的な構文を子供にも分かりやすい文章に手直しされているが、その意味としてはしっかりとプログラム的なものとなっている

実際の利用イメージ

実際にコンテストのデモの際に配られた用紙

MFP上のインタフェースも分かりやすいものになるように工夫が施されている

受賞理由について、審査委員長でもある坂村教授は、「どのチームもここまで残ったということは誇って良い。グランプリについては、一言で言ってしまえばトータルバランスが良かった。さまざまな審査員がさまざまな角度から評価を行い、その評価を足し算していくと、プレゼンテーションが悪くても駄目だし、用いた技術が悪くても駄目。開発目標や社会への影響なども加味していくと、最終的に重要になるのは完成度の高さで、ある程度の納得がないといけない。そういった意味ではリコーのMFPをうまく活用し、8歳以下の子供にターゲットを絞って、プログラムの基礎を身につかせようという試みは、もう少し練れば実際に使えるものになる可能性があるということで選出した」としている。

また、受賞に際し、チーム:ダイコラスタの代表が、「去年も出場させていただいたが準グランプリで、今年はなんとしてもグランプリを取ろうと言ってきた。今年は去年の反省を踏まえ、チームみんなで仕事ができ、その結果としてグランプリが取れたと思っている。メンバーには感謝している」とコメントをしており、チームマネジメントがうまくいったことなどが感じられた。

全チーム参加者と審査員の集合写真(提供:リコー)

グランプリを受賞したチーム:ダイコラスタと審査委員長の坂村教授

参加者投票

ちなみに抽選で選ばれた来場者へのアンケート調査の結果、3位には和歌山大学大学院のチーム「たちうお」が開発した「アイディアルーム」が、2位には東海大学の3年生3人だけで構成されたチーム「IKS」のシステム「SkypEasy」が、そして1位には関西学院大学大学院のチーム「チーム:ダイコラスタ」のシステム「ここっぴmaker」がそれぞれ選出された。

元々リコーのMFP上で動くJavaを活用したシステムを開発する、という発想からスタートした同コンテストだが、MFP以外のものも使えるようになったこと、ならびに6回目の開催ということで、今回のコンテストでは、MFPをどうやって活用するか、といった点ではややネタ切れ感が否めなかった。しかし、その代わりにスマートフォンを中心としたソーシャルアプリなどをどうやって活用して人と人をコミュニケーションさせるか、といったことに挑んだチームが目立った印象であった。そうした意味では、技術の潮流の変遷を感じないわけではないが、すでに開催が決定している次回大会では、今回のグランプリチームにも送られた全天球 360°撮影可能なカメラ「RICOH THETA」などの新たなアプリケーションの活用も期待されることから、また新たな技術の潮流が生み出されるかもしれない。また、リコーでは、次回大会の新たな試みとして、1年近い期間を要する本戦とは別に、2014年夏にアイデアそのものを競う短期決戦のコースを開催することも計画しており、そうした新たな取り組みからも面白い技術やシステムなどが生み出される可能性も出てきた。

なお、今回のコンテストからオープンコンテストとして仕切り直しがなされており、リコーでも日本科学未来館との協力関係の強化なども図っていく方針としている。