岡山大学は1月10日、「キイロショウジョウバエ」のオスの1日の行動リズム(概日リズム)が、メスのリズムによって影響を受けることを明らかにし、またメスとの接触により、オスの脳内時計細胞に影響が現れることを突き止めたと発表した。
成果は、岡山大大学院 自然科学研究科 時間生物学教室の吉井大志助教、同・富岡憲治教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、2013年12月18日付けで米オンライン科学誌「PLoS ONE」に掲載済みだ。
体内時計により制御されている概日リズムは光などの24時間の環境サイクルに同調する仕組みを持つ。また社会行動が概日リズムに及ぼす影響はこれまで長く議論されてきたが、未解明の部分が非常に多く、研究も進んでいなかった。
キイロショウジョウバエは概日リズムを制御する「時計細胞」が正確に同定されている実験モデル動物だ。脳内の150個の神経細胞が概日リズムに関わる時計細胞であることが解明済みである。時計タンパク質はその時計細胞の中で体内時計の歯車となるタンパク質であり、その多くは約24時間の周期でタンパク質の量が変化する(発現リズム)。今回の実験では、約19時間のリズムで動く突然変異体のメスを用いて、そこにオスを同居させることでオスの行動リズムがどう変化するかの解析が行われた。
野生型のハエは夕方に活動が高まるが、突然変異体は活動時間が早まっており、昼に活動が高まるという特徴を持つ。この突然変異体のメスと同居した野生型のオスはメスの活動時間に合わせて変化していき、昼の活動が高まることが確認された(画像1)。そこで研究チームはオスの脳を特殊な抗体で染色し、時計タンパク質「PDP1」が発現するリズムを観察。すると、神経細胞群「DN1」がメスのリズムに影響を受けていることが明らかになったというわけだ(画像2)。
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画像1(左):早く活動するメスに合わせて、オスの活動も早くなる。 画像2(右):キイロショウジョウバエの脳にある時計細胞の分布と、今回の研究で注目された細胞群DN1における時計タンパク質PDP1の発現 |
これまで社会行動と概日リズムの関係は、主にほ乳類や社会性昆虫(ミツバチなど)で研究されてきた。今回の研究では、モデル生物であるキイロショウジョウバエを用いることで、社会行動と概日リズムに関与する神経細胞群を同定することが世界で初めて可能になった形だ。キイロショウジョウバエにおいては、オスがメスの行動リズムに合わせることにより、交尾の機会を増やし、子孫を増やすことにつなげていると考えられるとしている。
また、体内時計のメカニズムは種を超えて共通する部分が非常に多いことから、今回の研究のキイロショウジョウバエのように、ほかの動物種(ヒトを含む)においても雌雄の社会的関係が概日リズムに影響を与える可能性が考えられるという。そして現代人の概日リズムの乱れは、睡眠障害、うつ病、肥満などを引き起こす要因となることが明らかになっている。
今回の研究成果は、ヒトの概日リズムの乱れにおいても社会的要因が関与する可能性を示唆しているという。将来、睡眠障害などの疾患が体内時計と社会因子の観点からも研究されることが考えられるとしている。