東邦大学は12月27日、「サッカーボール型分子 フラーレンC60」誘導体の新たな合成手法を開発したと発表した。今回の成果は、同大学院理学研究科 化学専攻の内山幸也氏と理学部化学科の森山広思教授によるもの。

フラーレンC60とは、一般に炭素原子が60個集まったサッカーボール型分子のこと。フラーレンは有機薄膜太陽電池のn型半導体として開発が進められているほか、抗酸化作用をもつことから、最近では化粧水などに含まれていることでも知られている。

この分子は、さまざまな物質(原子や分子)を付加したり、中に閉じ込めたりすることができることが特徴。このうち「多付加フラーレン誘導体」と呼ばれる物質群は、本来フラーレンが持ち得ない付加分子に由来するさまざまな性質を有する。有機薄膜太陽電池といったエネルギー分野のほか、半導体や医薬剤などの分野で応用が期待されており、現在、多付加フラーレン誘導体の新たな可能性を開拓するため、研究・開発が行われている。

しかし、多付加フラーレン誘導体を合成する際、付加位置の異なる化合物(付加位置異性体)との混合物となり、単一の生成物として得難いことが以前から問題となっているという。その解決方法の1つとして、単一の生成物として得ることのできるハロゲン化フラーレン(ハロゲン:周期表において第17族に属する元素でフッ素〔F〕・塩素〔Cl〕・臭素〔Br〕など)を出発物質として用い、そのハロゲン部位を置換するという手法が考えらている。

今回内山氏らは、一般的に出発原料として用いられてきた有機溶媒に塩素化フラーレンだが、反応制御が困難なため、臭素化フラーレンC60Br8とアルコールを反応させ、臭素〔Br〕部位の置換を試みたという。臭素化フラーレンは有機溶媒にほとんど溶解しないという問題があったが、銀(Ag)を脱臭素剤として添加し、臭素化フラーレンが溶けなくても、平衡が生成物側に移動することで反応をスムーズに進めることを可能としたことで、新たな多付加フラーレン誘導体(ここではアルコキシフラーレン)C60(OR)8を単一生成物として得ることに成功した。

また、C60(OR)8はC60Br8と同様の付加形態を有していることをX線結晶構造解析で確認したという。C60Br8と同様の付加形態を有するフラーレン誘導体の合成法は知られておらず、同研究で確立した手法が唯一の方法となるという。

同研究で新規に合成された多付加フラーレン誘導体は、有機薄膜太陽電池やライフサイエンスなどさまざまな分野への応用が期待されるとしている