東京大学は12月25日、重金属を含まない顔料や光触媒として、その応用が研究されている酸窒化タンタル(TaON)が高性能な半導体材料であることを発見したと発表した。

同成果は、同大大学院 理学系研究科 化学専攻の長谷川哲也教授、廣瀬靖助教、鈴木温大学院生(博士課程1年)らによるもの。詳細は、「Chemistry of Materials」に掲載された。

金属と酸素(O)、窒素(N)からなる酸窒化物は、重金属を含まない顔料や光触媒材料として、10年ほど前から盛んに研究されている。一方で、合成された酸窒化物が微細な粉末に限られるために、電気的性質の測定は一般に困難で、あまり知られていない。酸窒化タンタル(TaON)は代表的な金属酸窒化物であり、通常は最も安定なバデライト型の結晶構造をとるが、いくつかの準安定な結晶構造をとることが実験や理論計算によって報告されている。これらの準安定構造の中で、アナターゼ型のTaONは、光触媒や透明導電膜として応用されているアナターゼ型酸化チタン(TiO2)と結晶構造と電子配置が同一のため、高い電気伝導性や光触媒活性が期待されている。しかし、準安定な構造を持つアナターゼ型TaONの合成には、マグネシウム(Mg)やスカンジウム(Sc)といった添加剤を多量に加える必要があった。これらの添加剤は、TaONの電気的な性質を大きく歪めてしまう可能性がある。

今回、研究グループは、試料の形状や添加剤による影響の問題を解決するために、格子定数の一致する単結晶基板上へのエピタキシャル成長によって、アナターゼ型TaONの合成を試みた。試料の合成には窒素プラズマ支援パルスレーザ堆積法を用い、紫外レーザで気化させた酸化タンタル(Ta2O5)と窒素ラジカルをLSAT(La0.3Sr0.7Al0.65Ta0.35O3)と呼ばれる酸化物単結晶上で反応させた。結晶成長の温度や結晶中の酸素量と窒素量の比などのパラメータを最適化した結果、厚さ約40nmのアナターゼ型TaONの単結晶薄膜を合成することに成功した。

(左)アナターゼ型のTaONの単結晶薄膜の断面を透過型電子顕微鏡でとらえた画像と(中央)その結晶構造の模式図。(右)バデライト型のTaONの結晶構造の模式図

合成した薄膜の電気的な特性を評価したところ、結晶中の酸素や窒素をわずかに欠損させることで電子の濃度を調整することができ、優れた電気伝導性を示す半導体であることを発見した。半導体材料における電気伝導性の指標である電子移動度は、室温で約17cm2V-1s-1。透明導電体として応用されているアナターゼ型TiO2と同程度の高い値だった。

アナターゼ型のTaONの単結晶薄膜の透明性(上)と電気伝導性(下)

異なる条件で作製したアナターゼ型TaONの電気特性の温度による変化。電気特性として、(a)電気抵抗率、(b)電子密度、(c)電子移動度を測定した

アナターゼ型TaONは青色の光を吸収するが、可視光領域での屈折率が約3と高いため、シリコン(Si)や化合物半導体との界面での光反射による損失が小さくなる。このため、発光素子や太陽電池などの光デバイスの透明電極として用いると高効率化が期待できる。さらに、高い電子移動度は電子デバイス材料としてだけでなく、水素発生用の光触媒や半導体光電極としての有効性も示唆している。また、今回開発した単結晶薄膜のエピタキシャル成長技術は、他の金属酸窒化物にも適用できるため、これまであまり知られていなかった金属酸窒化物の電気的な特性の理解を深め、顔料や触媒材料として考えられていた物質の中から高性能な電子材料が新たに見つかる可能性が期待されるとコメントしている。