京都大学 iPS細胞研究所(CiRA)は、進行性骨化性線維異形成症(FOP:Fibrodysplasia Ossificans Progressiva)患者の細胞から作製したiPS細胞を利用し、FOPの病態を再現することに成功したと発表した。
同成果は、松本佳久 大学院生(京都大学CiRA/再生医科学研究所/名古屋市立大学大学院)、戸口田淳也 教授(京都大学 CiRA/再生医科学研究所/医学研究科)、池谷真 准教授(京都大学CiRA)、エドワード・シャオ博士(グラッドストーン研究所/カリフォルニア大学サンフランシスコ校)らの研究グループによるもの。詳細は、2013年12月9日に「Orphanet Journal of Rare Diseases」に公開された。
FOPは筋肉や腱、靭帯などの柔らかい組織の中に骨ができてしまう病気で、200万人に1人程度の割合で患者がいる希少難病の1つ。「ACVR1」遺伝子に変異が生じて過剰に働くことが原因でFOPになることはこれまでの研究で判明しているが、FOP患者から組織サンプルを採取すると骨化を促進してしまうことやマウスを使ったFOP病態モデルの限界などからFOP発症のメカニズムは不明だった。また、FOP患者から採取した細胞を使ってiPS細胞を樹立することはできたが、iPS細胞の分化能について評価されていなかったという。
今回研究グループは、iPS細胞から骨・軟骨への分化誘導法を確立し、FOP患者由来のiPS細胞の骨・軟骨への分化能について検討を行った。研究では5名のFOP患者から採取された皮膚の線維芽細胞を用いてiPS細胞を樹立した。
その結果、 FOP患者から樹立したiPS細胞は骨化しやすいことが判明。4種のFOP患者由来のiPS細胞と2種のコントロール用iPS細胞を作製し(いずれも3胚葉に分化する能力を持ち、多分化能を持った細胞)、この細胞を骨化が促進する条件下で15日間培養したところ、コントロールの細胞と比べてFOP患者由来の細胞のほうが骨化が進んだという。
iPS細胞を骨へと誘導する環境で培養し、1、6、15日目に骨化の度合いを測定するコッサ染色を行った。15日目には黒く検出されるようになるが、FOP患者由来のiPS細胞はより濃く染まっており、骨化がより進行していることがわかる |
また、コントロール用のiPS細胞2種類とFOP患者から樹立したiPS細胞3種を軟骨へと誘導するペレット培養を行ったところ、コントロールと比較してFOP患者由来の細胞のほうが大きな軟骨を形成したという。
研究チームは今回の成果を受け、FOPの病態を体外で一部再現することができたほか、骨化・軟骨化を緩和する薬の候補となる物質を探すための評価系を確立できたことで、FOPの創薬研究に貢献できたとしている。また、iPS細胞技術を活用し病態を再現できる可能性を示し、さまざまな難病の創薬研究ならびに疾患メカニズムの解明にiPS細胞技術が利用できることを示すことができたとしている。