岡山大学は、オンコリスバイオファーマが臨床開発を進める腫瘍融解ウイルス「テロメライシン」が、休眠状態にある細胞周期を回転させることで、効率よく胃がん幹細胞を殺傷することを確認したと発表した。
同成果は、同大大学院医歯薬学総合研究科消化器外科学分野の藤原俊義 教授、同 矢野修也 医師、カリフォルニア大学サンディエゴ校(外科)のRobert Hoffman教授らによるもの。詳細は、米国科学雑誌「Clinical Cancer Research」に掲載された。
がんの根源を成す「がん幹細胞」は、分裂して自分と同じ細胞を作り出すことができる「自己複製能」とともに、いろいろな細胞に分化することのできる「多分化能」を有しているため、がん幹細胞を根絶しない限り、がんの根治は難しいと考えられている。
しかし、がん幹細胞は、分裂停止状態に留まることができ、多くの場合、細胞周期が静止した「休眠状態」にあるため、増殖期にある細胞に有効な抗がん剤や放射線に抵抗性を示し、がんの再発の原因となっていた。
今回の研究では、細胞周期のG1期にある細胞を「赤色」、S期にある細胞を「黄色」、G2/M期にある細胞を「緑色」の蛍光でみることができる胃がん細胞を樹立し、がん幹細胞マーカー「CD133陽性」の細胞をフローサイトメトリーで分離。分離したCD133陽性の胃がん幹細胞をスフェロイド培養(3次元培養)したところ、すべての細胞は赤色でG1期に止まっており、抗がん剤(シスプラチン)や放射線でもがん細胞塊の大きさは変わらなかったが、腫瘍融解ウイルスである「テロメライシン」の投与により、がん細胞塊の表面から細胞は黄色や緑に変わり、徐々に癌細胞塊のサイズが減少し、最終的には胃がん幹細胞のスフェロイドが消滅したことを確認したという。
この結果は、テロメライシンが胃がん幹細胞の細胞周期を止めているp53やp21の発現を抑え、細胞周期を回転させるE2F-1の発現を上げることを示すもので、研究グループでは、マウス移植した腫瘍の中心部の休眠状態であったがん細胞も、テロメライシンの投与で細胞周期が回転して効率よく細胞死が誘導されることも確認しており、研究グループでは、細胞周期を検討することでテロメライシンが理論的にがん幹細胞に有効であることを示すものであり、がんの再発を防ぎ、根治を目指した治療戦略の確立に有用であると考えられるとコメント。今後、、テロメライシンの臨床開発が順調に進むことで、がん幹細胞にも有効な抗がんウイルス製剤として、国民の健康増進や医療経済の節減につながることが期待されるとしている。