東北大学は12月12日、糖尿病を対象とする細胞移植治療である膵島移植において、移植後の短期間の絶食とインスリン投与が膵島移植の効果を増大させることを確認したと発表した。

同成果は、同大未来科学技術共同研究センター(大学院医学系研究科兼務)の後藤昌史 教授、同大大学院医学系研究科先進外科の大内憲明 教授および神保琢也 医師らによるもの。詳細は米国の国際学術誌「Transplantation」に掲載された。

膵島移植は、全身麻酔や開腹手術を必要とせず、ごく少量の細胞を点滴の要領で注射することで良い細胞移植治療法であり、従来行われてきた膵臓移植などの臓器移植療法と比べ、安全・簡便・低侵襲などの利点が着目され、次世代の移植医療として期待されている。しかし、移植された膵島細胞への栄養血管が完成するまでに約2週間ほどかかることや、高血糖状態が膵島の細胞量減少や機能減弱をもたらすことが報告されており、栄養血管を持たず酸素もエネルギーも供給されない環境下で、血糖変動による仕事負荷や高血糖自体に起因する糖毒性に曝されることで、移植膵島が疲弊し、生着率が悪くなっていることが考えられており、その生着率の改善が課題となっていた。

そこで研究グループは今回、栄養や酸素が十分に行き渡らない時期の膵島細胞を疲弊させないことが移植成績向上へ向けて重要であると考え、短期間の絶食とインスリン投与を組み合わせる新しい膵島移植手術法を考案。ラットを用いた検証を行った。

新しい膵島移植治療法の概念図

具体的には、糖尿病を人為的に発症させたラットを作成し、通常の臨床移植治療で行われている方法と同じく、カテーテルを挿入した門脈から肝臓に膵島を移植(経門脈的同系膵島移植)し、その後、3つの異なる療法を施行し、それらの効果を比較した。

経門脈的同系膵島移植の説明図

1つ目は、血糖値を適正値まで下げることで膵島への糖毒性を軽減するための「移植後インスリン強化療法」で、食事摂取時の血糖値上昇による仕事負荷を軽減するための短期絶食、および、高カロリー輸液による中心静脈栄養を組み合わせた方法(Resting群)。2つ目は、インスリン強化療法のみで食事制限を行わない自由摂食(Insulin群)。そして3つ目は、移植のみで自由摂食(Control群)で、この3群間で、移植膵島の生着に関し比較検証を実施した。

その結果、Resting群、Insulin群の糖尿病治癒率は、Control群に比べ有意に高値が示されたほか、移植後の血糖推移、糖尿病治癒率においてはResting群、Insulin群ともにほぼ同等の改善率が示されが、耐糖能はResting群、Control群間にのみ有意差が認められた。また移植後の肝内グラフト残存量の指標である肝内インスリン量においても耐糖能と同様、Resting群、Control群間にのみ有意差が認められ、Resting群はInsulin群よりも移植膵島の残存率が高いことが判明した。

膵島移植後35日間の観察期間終了後の肝内インスリン量。移植後の肝内グラフト残存量の指標である肝内インスリン量は、Resting群、Control群間にのみ有意差を認め、またResting群ではInsulin群よりもグラフト残存量が改善する傾向を認めた(13.2±3.8 vs. 7.0±1.5 vs. 3.5±1.1ng/IEQs)(P=0.03)。(Resting群:インスリン強化療法および短期絶食を組み合わせた群、Insulin群:インスリン療法のみで自由摂食とする群、Control群:移植時に絶食もインスリン療法も行わず自由摂食とする群)

さらに膵島機能の指標であるSUIT indexにおいても、Resting群、Control群間にのみ有意な差が認められ、Resting群はInsulin群よりもグラフト機能を改善することが判明した。Resting群においては、酸化ストレスのマーカーが他群より低値を示し、Restingプロトコールの奏功機序の1つとして移植後酸化ストレスの制御が示唆されたとする。

膵島移植後35日目におけるthe secretory unit of islet transplant objects (SUITO) index。移植後35日目における血液サンプル解析により、グラフト機能の指標であるSUITO indexにおいてResting群、Control群間にのみ有意差を認め、またResting群ではInsulin群よりもグラフト機能が改善する傾向を認めた(13.2±2.3 vs. 8.1±1.6 vs. 3.6±1.1)(P=0.002)

インスリン療法と短期絶食によるグラフト負荷の軽減を組み合わせるResting法が、インスリン療法単独よりも強いグラフト保護効果を有することを示したことを受けて研究グループでは、一回の移植において十分なグラフト量の確保が困難である膵島移植において、新規膵島移植手術法であるResting法は移植成績向上をもたらす有用な手法と考えられると説明している。