29日未明(日本時間)の近日点通過を目指して太陽に接近しているアイソン彗星の光の分析に、京都産業大学理学研究科(博士後期課程3年)の新中善晴さんを中心とする研究チームが成功した。同彗星が14日以降に急に増光した直後のタイミングで、すばる望遠鏡(ハワイ島)を用いて分光観測したもので、同彗星の“核”の成分構成や急増光のメカニズムなどを知る上で貴重なデータが得られたという。
分光観測は16日午前0時すぎ(日本時間)に、すばる望遠鏡に搭載した「可視光高分散分光器(HDS)」を用いて行われた。国立天文台によると、アイソン彗星は太陽に近づきつつも、当初予想されたほど明るくなっていなかったが、金星軌道の内側に入るや14日に急激な増光を起こし、その後2日間で10倍以上明るくなった。
観測されたスペクトルには、炭素や酸素、水、ナトリウムなどといった、気体状態の分子や原子から放たれた無数の輝線が記録された。とくにナトリウム原子による輝線がかなり強かった。
ナトリウム原子は、彗星の核に含まれる塵(ちり)から蒸発して出てくると考えられるが、観測当時は塵による反射光が弱く、この考え方には沿わない。そのため、ナトリウム原子の生成については、新たな謎となった。また、急増光の原因の1つとして、彗星の核が分裂したことも考えられるが、画像の解析ではその兆候は見られなかったという。
研究チームは、取得したデータを詳細に解析し、“原始太陽系円盤”から彗星の誕生時に取り込まれた分子の形成温度や、今回の急増光の原因となった可能性のあるガスの成分比などを調べ、アイソン彗星の起源や急増光のメカニズム、さらに太陽系の成り立ちなどについて究明していく予定だ。
アイソン彗星は29日午前4時9分(日本時間)に太陽に最接近(近日点通過)する。その前後の日は太陽に近すぎて地上から観測できないが、同彗星本体が崩壊せずに太陽を回って来れば、12月4日ごろから再び、夜明け前の東の空に姿を現すはずだ。
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