TANAKAホールディングスは11月26日、田中貴金属工業の湘南工場が、シアン系めっき廃液を無害化した上で、廃液に微量に含まれる金や白金、パラジウムといった貴金属を回収できる技術を確立したと発表した。

半導体部品などのめっき加工で発生するシアン系めっき廃液には、シアン化合物や無機炭酸塩のほかに、貴金属をはじめとした有価金属が含まれている。一般的に、シアン系めっき廃液1m3中には、金が約0~3g、白金が約0~3g、パラジウムが約0~5g含まれているほか、レアアース(希土類元素)などのさまざまな有価金属が微量に含まれている。ただし、シアン化合物は強い毒性を有するとともに、半導体部品などのめっき加工で発生するシアン系めっき廃液におけるシアン化合物の濃度は、一般的に中~高濃度であるため、処理には万全を期す必要がある。現在、シアン系めっき廃液の処理を産業廃棄物業者に委託せずに、自社内で処理する方法はいくつかあるが、いずれも高コストなことや環境負荷が大きいといった問題点がある。

中~高濃度でシアン化合物を含有する廃液の処理方法としては、炉内噴霧法がある。1000℃を超える高温の炉内に廃液を噴霧し、シアン化合物を分解するものだが、高コストなほか、無機炭酸塩が溶融し、炉内に付着して炉を破損させる。さらに、有価金属を回収できないという欠点がある。

また、低濃度のシアン廃液を処理する方法としては、廃液に水酸化ナトリウムを添加し、水素イオン濃度(pH)を10~11に調整しながら次亜塩素酸ナトリウムを加え、シアン化合物を窒素にまで分解するアルカリ塩素法という方法がある。しかし、アルカリ塩素法を用いて中~高濃度シアン廃液を無害化しようとすると、激しく発熱し、有毒ガスの大量発生を伴うため危険であること、処理に大量の薬品が必要になりコストが高くなることなどの問題点がある。また、廃液から有価金属を回収しようとすると、処理廃液と薬品との合計体積が大きくなり、有価金属の濃度が希薄になるため回収が困難となり、費用対効果が低い。

このほかにも、高温高圧下で熱加水分解する方法や、オゾンガスの酸化力を利用するオゾン酸化法などがあるが、前者の方法はシアン化合物を十分に分解できない、後者の方法は高コストであるという問題点がある。

こうした課題点を解決するため、田中貴金属工業は、低コストでシアンを無害化し、貴金属を回収できる技術を開発した。同技術は、従来方法の分解温度より低い温度域で、シアン系めっき廃液の濃縮物(スラッジ)を分解することにより、シアン化合物をシアンガスとしてスラッジから分離させ、分解残渣から貴金属を回収することを可能にした。また、分解温度が低いため、低コストで廃液を処理できることに加え、溶融性塩である無機炭酸塩が炉内で溶融しないため、炉を腐食することがない。そして、分離されたシアンガスは、さらに燃焼することで、水と二酸化炭素および窒素に分解できるため、処理が容易である。シアン化合物が分離された分解残渣は、毒性が低いという。このほか、貴金属以外の有価金属についても、必要に応じて回収可能という。

シアン化合物を分解処理する炉の外観

同技術を用いたシアン系めっき廃液の処理・回収の主な流れ