京都大学と神戸大学の研究グループは11月19日、ヒトiPS/ES細胞の大規模な解析により品質の良い細胞と悪い細胞の見分けることに成功したと発表した。

今回の研究成果は神戸大学大学院医学研究科の青井三千代 助教(元 京都大学CiRA)、京都大学CiRAの大貫茉里研究員、同 高橋和利 講師、同 山中伸弥教授らによるもの。詳細は11月18日(米国東部時間)以降、米国科学誌「Proceedings of the National Academy of Sciences」のオンライン版に掲載される予定だという。

これまで、iPS細胞とES細胞の違いについてさまざまな報告がなされてきたが、比較に用いる細胞株の絶対的な数が少ない点や培養条件が統一されていないという問題点があり、はっきりとした答えは出ていなかった。研究グループは今回、ヒトiPS細胞49株とヒトES細胞10株を同じ条件で培養し、それぞれの性能を比較検討を実施したという。

最初の研究では、4種の体細胞(皮膚線維芽細胞・歯髄幹細胞・臍帯血細胞・末梢血単核球)から、3つの遺伝子導入方法(レトロウイルス、エピソーマルプラスミド、センダイウイルス)を用いて49株のヒトiPS細胞を樹立したほか、10株のヒトES細胞を同じ方法で培養し、それぞれの遺伝子発現パターンやDNAのメチル化状態を比較した。その結果、単独でヒトiPS細胞とES細胞を識別できる指標となるような遺伝子はなかったという。

左図は使用したiPS細胞の由来と樹立方法。HDFは皮膚線維芽細胞、DP歯髄幹細胞、CBは臍帯血細胞、PBMNは末梢血単核球。右図は2つの遺伝子PON3(左)とTCERG1L(右)のDNAメチル化状態について調べた結果。両者でメチル化状態はオーバーラップしており、これらを指標にiPS細胞とES細胞を識別することはできなかったという

次の研究では、iPS細胞およびES細胞の分化能力を検証するために、培養ディッシュ上で40株のiPS細胞と10株のES細胞を神経細胞へと分化させた。すると、どの細胞株も80%以上の効率で神経細胞へと分化することを確認でき、一部のiPS細胞株では10%以上の未分化な細胞が残ってしまうことがわかったという。

左図は40株のヒトiPS細胞と10株のヒトES細胞を神経細胞へと分化させ、未分化マーカーであるOCT3/4を指標に未分化細胞の残存率を測定した結果。右図は品質の悪い株と良い株との間で遺伝子発現のパターンの比較。マゼンダ色が品質の悪い株で発現が高かった遺伝子群。特に3つの遺伝子に着目した

また、分化誘導後の細胞をマウスの脳に移植すると、品質の悪い細胞株は奇形腫を形成することもわかった。これらの細胞株を事前に予測するために、品質の悪い細胞株と良い株との間で遺伝子発現のパターンを比較したところ、品質の悪い細胞株で共通して強く発現しており、指標となりうる遺伝子群を見出した。また、これらの遺伝子群の発現には太古の昔にヒトのゲノム上に挿入された内在性レトロウイルスが関与している可能性もあるという。

指標となる遺伝子の発現の有無で神経分化誘導、移植実験を行うことなく、品質の悪い細胞を予測できることが期待される

研究グループでは、この成果を利用することで、再生医療などでiPS細胞を利用する際に品質の悪いiPS細胞を除去することが可能になると、今後の展望を語っている。