――手帳にこだわる人はそれと同じくらい、書くための筆記具にもこだわりがあると思います。糸井さんが普段愛用している筆記具はどのようなものでしょうか。

昔、すごくこだわって使っていたシャープペンがあったんです。2Bの濃さで0.9mm芯なんですけどね。それをもう80年代からずっと使っているのですが、ある時から「もうこれからはパソコンの時代だ」と言われるようになって、その時に「俺も時代の波に乗ってこれからはパソコンだ」と決めて、そのシャープペンを封印する儀式を(TV番組で)やったんです(笑)

こうしてシャープペンシルを封印したのですが、それから5、6年ぐらい経って、また手書きもいいかな、なんて思った時がありました。それで、封印したあのシャープペンシル、またこっそり使おうかな……なんて思っちゃったりして(笑)

――では、封印を解いてシャープペンシルをまた使い始めたのでしょうか?

つい先日、渋谷ロフトで行った「手で書く手帳展。」のトークショーの帰りに、新しく買いました。以前愛用していたものと同じ、モンブランのもので、前持っていたものの後継種です。同じ種類ではあるんだけどちょっとだけ形が変わっていてね。以前のものよりちょっと太くて、お父さんっぽいんだよね。出しましょうか?

――はい、ぜひ! ずっしりしていて、手に馴染みやすいですね。

ええ、これを買ったことで、また手で書くということが増えるんじゃないかな。今は人に見せる文章を手で書くということは少なくなったけれど、鉛筆やシャープペンのもっている一種の「軽さ」みたいな感じがいいんですよ。

糸井さんが愛用しているモンブランのシャープペンシル(画像上側)。もうひとつ、太い芯をしたスケッチペンも使っているという

鉛筆で書かれたものって、人はちょっと「軽く見る」ところがあるんですよ(笑)。一番は万年筆で、次にボールペン、みたいな。鉛筆って、「下書き」の段階だと思わせるところがある。でも、その「軽さ」がアイデアの「モト」みたいなものを考えるときにちょうどいいというか。筆が乗ってくると必然と筆圧が高くなったりとかするんだけど、0.9mmだとそんな時でも芯が折れないんだよね。それもまた、ちょうどいい。…あ、まだ(シャープペンの)ラベルはがしてなかった(笑)

――もしほかに、最近お気に入りのモノなどあれば教えていただけると。

うーん、最近は好きになるものが少なくなってきたんだよなぁ。車でもなんでもいいんだけど、自分がこう、愛着をもてるものが少なくなったなあと。

うちの会社で作っている「ほぼ日手帳」やいろんなグッズにしても、愛着を持てるものはどのようなものだろう、って考えて作る。そうすると「あ、これほしい」って思ってくれる人に届くんですよね。「代わりにならないもの」っていうのは、そういうことだと思うんですよ。

――手帳に関する話題にもどるのですが、手帳を使うにあたり、クリエイターにとってためになるメモの取り方のコツなどがあれば教えてください。

メモや発想のアウトプットの上手い下手っていうのは「食いしん坊は料理上手」ということだと思います。「これがおいしい」って分かっている人が、おいしいものを作れるんです。

メモに関しても、まず「何を感じるか」ということ。「うまく言葉になりにくい、けれどいま感じたこと」をメモするときに、なんという言葉を(自分で)選んで「その感じ」をメモするかという時点で、すでに自分の中でふるいにかけてるんだよね。メモを取る時に、大事なこと以外は削ぎ落とされていく。

それを後で見たときに「ああ、あの時自分が気になったのはこのポイントだったのか」って気づかされる。メモするときに脳が自分の中で整理をしているんですね。だからメモは相談相手、というか自分といっしょに自分と向き合う仲間みたいな、そういもの。

――そういうメモをとれるようになるには…?

まずは、頻繁にメモをとることですね。脳がそういうことに馴れてくるから。他人の発言をそのまま書き取るよりも、自分がどう考えたか、ということを書いてみる。メモというのは、自分と向き合うためのものですから。

――そういえば、さまざまな方のほぼ日手帳やメモを展示する「手で書く手帳展。」が開催されていましたが、糸井さんの手帳はなかったですね。

だって、こんな偉そうなこと言っておいて、「なんだこんなもんか」って思われかねないじゃないですか(笑)

次回は、より糸井さんのクリエイションに迫る内容を伺いつつ、同氏ともつながりのふかい、宮崎駿監督の長編映画からの引退などについても聞いていった。こうご期待。