ソフトバンクグループの経営理念「情報革命で人々を幸せに」のもと、IT環境の変革に取り組んでいるソフトバンクテレコム株式会社では、シンクライアント化、スマートデバイスの活用によるワークスタイル改革を進めて来たが、さらなる利便性の向上にあたり、仮想デスクトップにおけるRDP通信の性能問題に直面した。

商用化を視野に入れ、最適な解決策を模索し続けていた同社は、2011年Ericom Blazeと出会い、既存の仮想デスクトップの仕組みを変えず、RDP通信のスピードを改善できることを確認。グループ2万名の仮想デスクトップへの適用とともに、商用サービス「ホワイトクラウドデスクトップサービス」にも採用を決定した。   

〔ユーザ概要〕
社名:ソフトバンクテレコム株式会社
本社:東京都港区東新橋1-9-1
創業:1984年10月
従業員数:約5,400人
事業内容:法人向けの固定電話サービスの提供、データ伝送・専用線サービスの提供
URL:http://www.softbanktelecom.co.jp/

シンクライアント・システムの利用拡大と商用化に向けての課題

ソフトバンクテレコム株式会社 ITサービス開発本部サービス推進統括部サービス推進室室長 竹内俊雄氏

ソフトバンクグループは「情報革命で人々を幸せに」を経営理念とし、自ら革新的なIT環境を積極的に導入しながら、ワークスタイル変革を推進してきた。

その取り組みのひとつとして、「いつでも、どこでも、どのスクリーンからでも業務ができる」ワークスタイルの実現のために、2009年よりシンクライアントやスマートデバイスの導入を促進し、現在では、ソフトバンクグループ内2万5千人の社員が自社データセンターの仮想デスクトップにアクセスし、場所やデバイスを選ばず仕事をすることが可能となった。仮想デスクトップのインフラを作るきっかけとなったのは、2009年、中国大連市に設立したBPOセンター。オフショアであっても高いセキュリティを実現するため、シンクライアント・システムを導入した。顧客の業務データは国内にあるソフトバンクテレコムのデータセンターに置き、BPOセンターからはシンクライアントで接続するため、業務データは中国側に一切残らない。通信プロトコルにはMicrosoft RDP(Remote Desktop Protocol)を用いたが、ネットワーク遅延による画面表示の遅れが発生することがあった。そのため、国際通信回線の敷設方法を考慮したり、回線帯域を拡大するなど、通信事業者ならではの工夫を施して対応したが、RDPを利用する以上、できることは限られていた。

情報システム部門がシンクライアント・システムの導入を進める一方、2008年にソフトバンクモバイルが「iPhone」「iPad」といったスマートデバイスの取り扱いを開始したことから、ITサービス企画部門は、こうしたデバイスの活用を前提にしたデスクトップ環境のシンクライアント化を真剣に検討し始める。自社内での運用が実現できれば、革新的なワークスタイルを実現するサービスとして、そのまま商用化する構想だった。しかし、その実現には大きな壁が立ちはだかった。ソフトバンクテレコム株式会社 ITサービス開発本部サービス推進統括部サービス推進室室長 竹内俊雄氏は、次のように振り返る。

「当時のシンクライアント・ソリューションはまだマルチテナントの発想がなく、導入する企業ごとにシステムを分けて構築する必要がありました。この方法だとどうしてもコストがかかります。興味を示してくださる企業もありましたが、見積もり提出段階で商談がストップしてしまいました。当社としても、顧客企業が増えるごとに開発が生じたり、運用工数が増大するのは望むところではありませんでした。当社はシステムインテグレータではないので、ここで競っては勝負になりません。工数をかけず標準サービスで提供できる完成度に達していないと、商用化は難しい状況でした」

RDP通信を高速化する唯一のソリューション"Ericom Blaze"を選択

その後、企画部門から情報システム部門に異動した竹内氏は、RDP通信の改善方法や商用化条件を満たすシンクライアント・ソリューションを模索し続け、ついに2011年、Ericom Blazeに出会う。日本総代理店を務めるアシストのEricom製品取り扱い開始のプレスリリースがきっかけだった。"RDP通信の高速化"をコンセプトにしたこの製品に興味を持った同氏は、セミナーで製品の性能を見て、すぐに「行けそうだ」と直感。社内シンクライアント環境でEricom Blazeの性能検証に踏み切る。社内テストでは、Ericom Blazeを組み込んだUSB型シンクライアント製品「雲人(くもんちゅ)」や、「iPad」などモバイルデバイス用のBlazeクライアント「Ericom AccessToGo」をモニター60名に配布し、数週間通常業務を行ってもらった。

USB型クライアント「雲人」からBlazeを起動した画面

「iPad」からAccessToGoを起動し、仮想デスクトップにアクセスする画面

モニターからのアンケートの結果、「速い」「見やすい」「画面表示がなめらか」という意見が多く寄せられた。実際にEricom BlazeとRDPのネットワーク・トラフィックの比較では、明らかな帯域抑制効果が見られるとともに(図1)、ネットワーク遅延が大きい海外からのアクセスでも問題なく使える使用感を実現することができた(図2)。

図1 RDP(画面転送プロトコル)のアクセラレータ

図2 海外とのネットワーク遅延

また、竹内氏自身にもEricom Blazeの効果を体験する出来事があったという。

「海外からのリモートデスクトップへのアクセスでは、ネットワーク遅延の程度が使用感を大きく左右します。そのため今までの海外出張では、RDPで遅い仮想デスクトップにアクセスするのは、急ぎの承認案件があるときぐらいで、それ以外はモバイル端末でメールを送受信するぐらいしかできないと割り切っていました。それが私自身が先日アメリカに出張したときのことです。ホテルからiPadでEricom Blazeを使うと、ネットワーク遅延が100ミリ秒を超えるアメリカ西海岸からでも、日本にいるときと変わらず仮想デスクトップに接続し、違和感なく仕事ができたのです」(竹内氏)

Ericom BlazeはRDPの画像データを独自の方法で圧縮することにより、RDP通信を高速化している。RDPが画像フレームを複数の小さなチャンクに分割、個別にレンダリングしてローカルディスプレイに表示するのに対して、Ericom Blazeはクライアント側でこれらのチャンクを統合し、完全な画面フレームを1つのユニットとして表示する。そのため、画面表示が開始されるまでは若干時間がかかるものの、その後はスムーズな表示を維持し、優れたユーザエクスペリエンスを実現する。ソフトバンクテレコムがうなずいたのもまさにこの点だった。

「今日ではシンクライアント・ソリューションも多様化しているものの、RDPパフォーマンスの改善に特化している製品としてはEricom Blazeが唯一無二の解決策で、その技術も秀逸です。技術的な比較のために他社の通信プロトコルもテストしましたが、仮に採用するとなれば通信プロトコルだけでなく、管理機能を含めたデスクトップ仮想化の仕組みを抜本的に変えなければいけませんでした。一方、Ericom Blazeはただ入れるだけで良かったのです。迷いはありませんでした」竹内氏は選択の理由をこう語った。