岡山大学は9月26日、地球の上部マントルを主要に構成しているカンラン石中のケイ素の自己拡散の含水量依存性を調べた結果、その依存性が従来考えられてきたよりも小さく、上部マントルの流動における水の効果は極めて小さいということが判明したと発表した。
同成果は、ドイツ・バイロイト大学地球科学研究所の桂智男教授とHongzhan Fei大学院生(博士課程)、岡山大学地球物質科学研究センター地球内部物理学研究室の山崎大輔准教授らによるもの。詳細は英国の総合科学雑誌「Nature」に掲載された。
従来の研究などでは、水が地球内部の力学的過程に大きな影響を及ぼしていると考えられていた。特に、変形実験の結果は重量で数十ppm存在しただけでカンラン石の粘性率を数桁低下させることが知られていたが、実際の地球内部の環境とは水の濃度や応力などが異なるため、そのまま得られた結果を地球内部に当てはめるには限界があった。
今回、研究グループは、地球内部に匹敵する高温では鉱物の変形速度は最も自己拡散が遅い元素によって律速されることから、岩石の変形はケイ素の自己拡散の効果としても考えることが出来るという観点から、カンラン石中のケイ素の自己拡散係数を、高温高圧下で含水量の関数として決定した。
その結果、拡散係数に与える水の効果は従来考えられてきたよりも小さいことが判明したという。これは、カンラン石は含水することでは粘性率の著しい低下を起こさないということを示す成果になるという。
地球表層のプレートがなめらかに動くことは、プレート下位に存在するアセノスフェアが低粘性であるためと言われているが、今回の結果を踏まえると、その低粘性はアセノスフェア内の鉱物が含水することによって引き起こされたのではないと考えられると研究グループは説明する。また、上部マントル内に低粘性層の存在が言われているが、これも含水によって生じているものではないと言えるとも述べており、今後の研究において、マントルを構成している他の重要な鉱物についても水の影響を調べることで、全マントル対流についての新たな知見を得ることにつながることが期待されるとしている。