岡山大学は9月5日、ルテニウムイオンに結合したある種の有機物が、塩基の添加により温和な条件下で4電子酸化されることを明らかにしたと発表した。

同成果は、同大大学院 自然科学研究科 地球生命物質科学専攻 錯体化学分野の三橋了爾 大学院生、鈴木孝義 准教授らによるもの。詳細はアメリカ化学会の科学雑誌「Inorganic Chemistry」に掲載された。

今回、ルテニウムイオンに配位結合したテトラヒドロピリミジル基の酸化還元挙動と酸塩基反応性を調査した結果、塩基の添加により温和な条件下で4電子酸化され、ピリミジル基に変換されることを明らかにした。金属イオンに配位結合したある種の化合物を、水素イオン(H+:プロトン)の脱離と電子(e-)移動を共役させて酸化する方法は、プロトン共役電子移動(Proton-Coupled Electron Transfer:PCET)と言われ、生体内での多くの触媒的な化学反応に関与していると考えられている。この原理を応用し、多くの有機物や水を低エネルギーで酸化する反応の開拓が試みられている。

今回の研究で用いたテトラヒドロピリミジル基のピリミジル基への酸化には、4電子と4プロトンの移動が伴い、一般に強い酸化剤と高い反応温度が必要となる。このテトラヒドロピリミジル基を含む有機物がルテニウム(Ru)イオンに結合した金属錯体では、金属イオンの酸化数が+2(RuII)の場合には解離が非常に難しかったN–H基が、ルテニウムを(RuIIIに)酸化すると容易にプロトンを脱離するようになった。この時、同時に有機物からの電子の放出とプロトンの脱離が連続的に起こり、テトラヒドロピリミジル基はピリミジル基に変換した。つまり、ルテニウムイオンを一旦酸化し、塩基を加えることにより、プロトンと電子の放出が容易になり、温和な条件下でも有機物を4電子酸化することが判明した。また、最初の過程であるルテニウムイオンの酸化は電気化学的にも実現することができ、比較的低電位の電圧印加でこの酸化を実現できることも分かった。

図1 ルテニウムイオンの酸化と塩基の添加によるテトラヒドロピリミジル基の4電子酸化反応

今回の研究では、一般的な方法では困難である化合物の多段階酸化反応が、金属イオンへの配位結合と酸塩基反応を組み合わせたPCETにより、温和な条件で実現できることを示した。反応の触媒として働いたルテニウム錯体には、酸化反応に直接関与しない有機物も結合しているが、この有機物はルテニウムイオンの反応性を制御する重要な役割を果たしている。この有機分子を代替したり、別種の金属イオンを用いることで、より効率が良く応用範囲の広い触媒を開拓することも可能であると考えられる。さらに、このPCET反応を人工光合成の鍵反応である水の酸化(水からの電子とプロトンの取り出し)に応用することが期待されているとコメントしている。