熊本大学は8月28日、哺乳類の雌雄の性を決定する新たな分子機構の一端を明らかにしたと発表した。
同成果は、同大発生医学研究所 腎臓発生分野の藤本由佳 博士課程学生、同 田中聡 助教、同 西中村隆一 教授らによるもの。詳細は発生生物学の専門誌「Developmental Cell」に掲載された。
哺乳動物の性は、性染色体XとYの組合せ(雄はXY、雌はXX)により、受精した卵の段階から遺伝学的に決定されるが、雌と雄の性の差が初めて生じるのは、妊娠中期頃の胎仔の体の中の生殖腺原基という組織で、この原基が、雄では精巣、雌では卵巣となることで、体全体が雄 または雌へと形作られていく。
生殖腺原基が精巣、卵巣のどちらになるかについては、雄(XY)にあるが、雌(XX)にはないY染色体上の性決定遺伝子「Sry」がそこで発現するかしないかによって決定されることがこれまでの研究から報告されているが、この雌雄の違いを生み出す素となる生殖巣原基そのものを作り出す仕組みや、雄になる最初の仕組みである性決定遺伝子Sryを働かせる機構については、また十分な解明には至っていなかった。
今回の研究は、本来は雄(XY)なのに、雌へと性転換してしまう遺伝子改変マウスを用いて、その雌雄の違いを生み出す仕組みの解明を目指したもの。具体的には、遺伝子発現を調節する転写因子であるSix1とSix4の両方を欠損させたマウス胚を用いた実験では、Six1/Six4が、生殖巣原基の素となる細胞を作り出すのに重要な遺伝子Ad4BP(Nr5a1/Sf1 )の発現をコントロールしてことが判明。この結果、雌雄ともに、小さな生殖腺しか作られないことが確認された。
また、同変異マウスでは、遺伝学的には雄(XY)にもかかわらず、生殖巣原基は精巣でなく卵巣へと性転換していることも確認されたことから、同変異マウス胚で性決定遺伝子Sryの発現を詳しく調べたところ、大きく減少していることを発見したという。
さらなる調査の結果、Six1/Six4が、生殖巣原基でのSryの発現をコントロールしている遺伝子「Fog2(Zfpm2)」の発現を、さらに上流でコントロールしていることが判明。これらの結果から、Six1/Six4が、2つの独立した経路によって、生殖巣原基を作り出すこと(生殖腺の大きさの決定)と、雄になる最初の仕組み(性の決定)をコントロールしていることが示された。
このSix1/Six4の有する、Sryの発現する「場(生殖腺)」の形成と、その発現誘導に関わる
ことが明らかとなり、この機構解明に大きな進展をもたらしました。
なお、SIX1/SIX4遺伝子は、生殖腺の発育のみならず、目や腎臓の形成にも必要で、その変異はこれらの形成不全を引き起こし、ヒトのさまざまな遺伝病の原因遺伝子としても知られていることから、研究グループでは今回得られた知見は、それら疾患の治療法の確立にも貢献することが期待されるとするほか、次世代を生み出す"もと"である生殖細胞(精子と卵子)を育てる組織でもあることから、今回の成果が、次世代へと生命を紡ぐ仕組みの謎の解明にもつながると期待されるとコメントしている。