東京工業大学(東工大)は7月19日、新タイプの金属-空気電池として「ナトリウム-空気電池」を試作し、放電容量などの特性がリチウムイオン電池の10倍以上であることを確認したと発表した。
同成果は、同大 応用セラミックス研究所 セキュアマテリアル研究センターの林克郎 准教授らによるもの。詳細は、米国の電気化学会誌「Journal of The Electrochemical Society」に掲載された。
リチウムイオン電池などの高いエネルギー密度を有する電池は、スマートフォンをはじめとした電気機器、そして近年はハイブリッド車や電気自動車などへの搭載が進んでいる。電気自動車で内燃機関車と同等の航続距離を実現するには、現状の3~10倍のエネルギー密度を持つ電池が必要となる。しかし、リチウムイオン電池の改良では、この目標を達成できないと認識されており、新しい原理で動作する電池の開発が望まれている。その1つとして、金属と空気中の酸素を反応させることで電力を取り出す金属-空気電池が注目されている。
リチウム-空気電池は、金属リチウム自体を陽極に用い、有機電解液が含浸された高分子セパレータなどを介して陰極で酸素と反応させて動作するため、大きなエネルギー密度が得られるが、放電生成物が陰極に目詰まりすることで放電が停止し、本来のエネルギー密度を発揮できないことが課題の1つとなっている。一方、ナトリウムは、リチウムより小さな標準電位や重い質量により、陽極活物質としては原理的に不利だが、豊富な資源であり、ナトリウムイオン電池の研究の過程で、活物質なのに加え、集電材、電解液などにも安価な材料が適用可能なことが明らかとなっており、注目されている。
研究グループは、Na+イオンを導通する酸化物系セラミックスのナシコン(Na super ionic conductor)を固体電解質セパレータとして用いることで、陽極側に有機電解液を、陰極側に水性電解液を導入した電池を構成した。陽極に金属ナトリウムを配置し有機電解液を用いることで、放電性を促進させている。ナシコンセラミックスは、金属ナトリウムや強アルカリ性の水性電解質に対しても化学的に安定である。また、室温から50℃の温度範囲で1cm当たり1~2×10-2(S・cm-1)のイオン伝導度を有することから、ナトリウム-空気電池に有効な材料であり、これらの特徴により、リチウムを用いた同様の構造の水溶液系リチウム-空気電池で課題だった、セラミックスセパレータの金属リチウムやアルカリ性電解液に対する腐食、相対的に低いイオン伝導度などを解決・改善したという。
放電特性を評価したところ、起電力が2.9V、ナトリウムおよび水溶液の活物質重量当たりの電気化学容量が約600mAh/g、エネルギー密度が約1500Wh/kgだったという。この値には、電極や固体電解質セパレータ、その他の構成材、システム部材などの重量を含まないものの、実用リチウムイオン電池の10倍もしくはそれ以上の値であり、大きなマージンを有している。
また、出力密度については、電池の各部位の改善で容易に出力の向上がみられ、約10mW/cm2とリチウム-空気電池などと比較しても優れた値を報告している。しかし、電池構成が比較的複雑であることから、実用向け開発研究に展開するためには、面積当たりの出力を100mW/cm2程度に向上することが今後望まれるとのことで、研究グループでは、水溶液系ナトリウム-空気電池の性能向上と2次電池化および、今回開発した電池の重要な部材であるNa+イオン伝導性固体電解質の伝導性や化学安定性の評価と向上に取り組んでいく方針としている。