2014年4月より、多摩美術大学・上野毛キャンパスに「統合デザイン」学科が新設される。同大学にはさまざまな分野のデザインを扱う学科があるが、この新しい学科では一体どんなことを学ぶのだろうか。今回は、「統合デザイン」学科で教鞭をとるアートディレクターの永井一史氏に、この学科の設立目的やカリキュラムの概要、そして自身の母校でもある多摩美術大学での経験についても語っていただいた。

アートディレクター・永井一史氏

――今回新設された「統合デザイン学科」はどのような目的で設立されたのでしょうか。

昨今、「デザイン」というものの捉え方がとても多様になってきています。デジタル化の波や、成長から成熟へ向かう時代における価値観の変化の中で、今、もう一度トータルにデザインをとらえ直す必要があると考えたからです。

――同学科には永井さまや深澤直人氏、中村勇吾氏、佐野研二郎氏などといった豪華な講師陣が名を連ねていますが、この学科のカリキュラムの特長をお教えください。

一番の特徴は、専門課程で行う「プロジェクト」という名のゼミのような授業で、われわれ専任教員が中心に担当します。自らの課題意識をもとに統合的にデザインをしていくことを学ぶ場で、われわれ4名の教員が集まってのクロスレビューのような形態をとったり、あるいは各固有の専門性について、自分の担当ではない教員に対しても相談することができたりします。

――学科名にある「統合デザイン」というものの考え方についてお聞かせください。

縦軸と横軸のふたつがあって、縦軸は、例えば、あるコップをデザインするときに、パッケージやブランドロゴが必要かもしれない。そのコップを置くお店のデザインも考える必要があるかもしれない。そういったことを横断的に考えられる力です。

横軸は、コップのデザインをするにあたって、そもそも今、社会において求められているニーズが、既存の"コップ"という解決方法でいいのかを疑い、新しい発想で解決方法を立ち上げる力です。統合デザインでは、この縦軸と横軸が重なったデザインを大切にします。

――永井さまがこれまで手がけられてきたさまざまなお仕事の中で「統合デザイン」という考え方があてはまるという事例にはどのようなものがありますか。

私たちが普段行っているコミュニケーションの仕事は、そのほとんどが"統合的"なものだと思いますが、ひとつわかりやすい業務事例をあげると、最近、地方のとある新病院の開院に携わることがありました。ネーミング、ロゴ、VIの開発、患者の声をより病院のサービスへ反映させられるフィードバックシステム、患者・家族・医者・看護師たちが状況に合わせて最適なコミュニケーションがとれる空間設計に至るまでをトータルで検討しました。

――「統合デザイン学科」を専攻した学生が大学を卒業したとき、どのような成長が期待できるとお考えでしょうか。

"これからの時代に必要とされるデザイン"ができる人材になれると思います。デザインはいま、再び社会インフラ含めて広い意味で必要とされるものになっています。そんな中で、社会・ビジネス課題が解決できるデザインを身につけた、自律した人材です。

――永井さまの母校である多摩美術大学の良いところや、学生時代に受けて印象に残った授業についてお教えください。

何か新しいことをしてやろうという志と、枠にはまっていない個性や指向性を持った人たちが集まっているところですね。

学生時代はよく、芸術学科の各界の一線で活躍している方の話をきける特別講義に潜り込んでいました。三宅一生さん、横尾忠則さん、リ・ウーファンさんなど、一流の方々のレクチャーを受け学ぶことができたのは非常に貴重でした。

――この学科で教えるにあたってチャレンジしてみたいことや、講義の中で学生に伝えたいポイントなどあればお教えください。

学生たちには、大学の中に閉じこもるものではなく、社会にもっとダイレクトにつながっていくデザインのあり方を伝えたいと思っています。

また、自分自身のチャレンジとしては、とにかく学生たちの新しい感性から刺激を受けたいと思っています。せっかく長い時間を大学で過ごすのであれば、ただ教えるだけではなく、自分も貪欲に色んなことを吸収したいと楽しみにしています。

――最後に、これからの活躍が期待される学生や若手クリエイターにひとことお願いします。

これからの社会において、既存の考え方にとらわれないで、その発想を社会に実装していく力は、ますます求められます。逆に言うと、そのようないろいろなチャレンジができる時代が到来しているとも言え、志ある人にとってはチャンスであり、非常に楽しい時代だと思います。

――ありがとうございました。

多摩美の今に触れるオープンキャンパス

「多摩美術大学 12分割アートライブリレー」のWebページ

「統合デザイン学科」が新設されようとしている多摩美術大学では、7月20日、21日にオープンキャンパス(八王子キャンパス)を開催。加えて、2013年度のオープンキャンパスに付随した学生プロジェクトとして、「多摩美術大学 12分割アートライブリレー」を7月21日まで実施する。これは、11学科・専攻の学生たちが、ある1枚の絵を12個のパーツに分割し、それぞれのパーツをモチーフにした作品(平面、立体、映像など)を順にWebで公開し、ひとつの作品を作り上げるという企画。多摩美に興味のある受験生のみならず楽しめるものとなっているので、一度Webサイトを閲覧してみてほしい。