産業技術総合研究所の活断層・地震研究センターは、宮城県・仙台平野で採取した東日本大震災と「西暦869年貞観(じょうがん)地震」の津波堆積物を含む実物の地層標本を作製し、今月20日から茨城県つくば市梅園の地質標本館で公開する。11月1日までの限定公開だが、標本作製の過程で作った津波堆積物の小型標本を全国の教育機関などに貸し出し、地学教育や防災意識の向上などに役立ててもらう。これに先立ち、日本の本州を縦断する「糸魚川-静岡構造線活断層系」で起きた巨大地震の痕跡を示す内陸活断層の実物標本を今月13日から同館で常設展示する。

作製された津波堆積物の実物標本(メジャーの数字は10cmごと)
(提供:産業技術総合研究所)

内陸活断層の実物標本
(提供:産業技術総合研究所)

活断層・地震研究センターでは、海洋沿岸域における津波浸水の履歴を明らかにするため、地形・地質調査を全国各地で行ってきた。特に平安時代前期の西暦869年7月9日に起きた貞観地震(推定マグニチュード8.4以上)による津波は、仙台平野が20世紀に経験したどの地震よりも大きかったことを、学会や報告書などで2010年までに明らかにしていた。しかし研究成果を防災に生かす間もなく、2011年3月11日に東日本大震災(東北地方太平洋沖地震=マグニチュード9.0)が起きた。そのため「より多くの人たちに巨大津波と地層との関係を知ってもらいたい」と、東日本大震災と西暦869年貞観地震による津波堆積物を実物標本として残すことにした。

津波堆積物は、津波によって海底あるいは海岸の堆積物が削り取られ、別の場所に堆積した砂泥や石などで、普通に堆積した泥炭層や泥層の中に「砂層」として挟まれることが多い。その津波堆積物の年代から津波の再来間隔を推定したり、その分布から過去の津波浸水域や規模を把握したりできるという。

こうした津波堆積物の標本づくりのために、大津波が襲った仙台市若林区を選び、地層抜き取り装置を使って幅1メートル、深さ1.5メートルほどの地層を採取した。さらに特殊な接着剤を使って地層の表面を剥(は)ぎ取り、これをL字型に合わせて実物の地層標本(長辺の幅約2メートル・短辺の幅約1メートル・高さ約1.5メートル)を作製した。これとともに幅0.2メートル、高さ1.5メートルの小型の実物標本も作った。標本では、表層近くに東日本大震災の津波堆積物、それよりも深い所に厚さ10-20センチメートルほどの貞観地震の津波堆積物を観察することができる。

内陸活断層の実物標本は、全長150 kmにおよぶ大規模な活断層系「糸魚川-静岡構造線活断層系」のうち、中央部に位置する長野県岡谷市の「岡谷(おかや)断層」で行ったトレンチ調査の際に採取した。大きさは幅2.5m×高さ4.5m。調査では西暦762年あるいは841年に起きた大地震より以前の過去4回分の大地震の痕跡が確認された。実物標本ではこのうち最近2回分の大地震の痕跡を読みとることができるという。

なお今回の地層研究や標本製作は、2011年度第3次補正予算「巨大地震・津波災害に伴う複合地質リスク評価」の一環として行った。活断層・地震研究センターでは今後さらに、津波堆積物については詳細な年代測定、堆積物の化学分析や粒度分析などを行い、貞観地震の津波堆積物の特徴を詳しく調べる。内陸活断層についても詳しい年代測定を行い、歴史地震以前の地震の発生時期などを調べる予定だ。