理化学研究所(理研)と物質・材料研究機構(NIMS)は7月3日、光触媒である酸化チタンのナノシートを用いることで、希の場所に何度でも光加工が可能な、水を主原料とした固形物「ヒドロゲル」を開発したと発表した。

同成果は理研創発物性科学研究センター 創発ソフトマター機能研究グループの相田卓三グループディレクター(東京大学大学院工学系研究科教授兼務)と、創発生体関連ソフトマター研究チームの石田康博チームリーダー、劉明傑 特別研究員、およびNIMS国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の佐々木高義フェロー、海老名保男MANA研究者らによるもの。詳細はオンライン科学雑誌「Nature Communications」に掲載された。

ヒドロゲルはほとんどの成分が水ながら、ゴムのような力学特性を示す固形物で、水の含有量が高いため生体適合性に優れており、コンタクトレンズや細胞培地などのバイオメディカル分野での応用研究が進められているほか、プラスチック代替物としての応用も期待されている。

しかし従来のヒドロゲルは、容器中で水と"ナノサイズに網目構造になった原料"を混合し、容器内で網目を作ることで得ていたため、単純な形状の塊としてしか得られないという課題があったほか、1度成形すると形状や組成を変えることが困難で、材料を設計できるのは最初の1回だけという特長があり、応用適用が難しいとされていた。

今回、研究グループは、有機ポリマーと酸化チタンナノシートとを連結することで網目を形成し、網目の隙間に大量の水を閉じ込めてヒドロゲルを作製した。これに光を照射すると、酸化チタンの光触媒作用により、網目中の水分子が高反応性のヒドロキシルラジカルに変換され、そこにビニルモノマーを共存させると、ラジカル重合反応が起こり、ポリマーの網目が新たに伸張され、その結果、ヒドロゲル中に情報を書き込んだり、ヒドロゲルと別物質とを強固に連結したりすることができるようになったという。

(a)が酸化チタンナノシート、(b)が今回開発されたヒドロゲルの構造。光触媒である酸化チタンをナノシートにすることで、水中に均一分散することができるほか、そのナノシートと有機ポリマーとの連結により作られる3次元網目は、隙間に大量の水を閉じ込めることが可能でありヒドロゲルを形成することが可能。同ヒドロゲルに紫外光を当てると、光を当てた場所でのみ化学反応がクリーンに進行する

また、酸化チタンナノシートはポリマー網目に固定されて拡散せず、重合反応は光照射部位でのみ進行するため、半導体プロセスで用いられるリソグラフィによる微細加工も可能なほか、ヒドロキシルラジカルの原料はヒドロゲル中の水だけのため、試薬添加を必要とせず、反応後に出る残留物による汚染もないこと、ならびに酸化チタン触媒は半永久的に安定しているため、水と光さえあれば何度でも同プロセスを繰り返すことが可能になるという。

(a,b,c)がヒドロゲルの光反応性を利用した微細加工。(d,e)が異物との接合。開発されたヒドロゲル上に、あるパターンで穴の開いたフォトマスクを置き、その上から光を照射すると、パターンに従って部分的にヒドロゲルが露光され、そこだけ化学反応が起きることで微細なパターンの形成が可能となる。また、同ヒドロゲルとプラスチックを密着させ、その隙間にモノマーを塗布した状態で光を照射すると、界面にてポリマー鎖が新たに形成されるため、、異物(ヒドロゲル-プラスチック)間で強固な接着が達成され、接合部は引っ張っても破断しなくなる

そのため、今回の技術を活用することでヒドロゲルの応用範囲が格段に広がることが期待され、人工臓器のような複雑な構造体を作り出すことも可能になると研究グループでは説明するほか、形状を時間経過とともに成長させたり、外部環境に適応して変化させたりすることで、光が当たることで劣化部位を修復させたり、浄化させたりできる機能を引き出せる可能性もあることから、酵素コンテナや薬物徐放システム、3次元的に加工された細胞培地などへの応用や、バイオメディカル分野での多様な応用が期待できるようになるとコメントしている。