大阪大学(阪大)は、血液・免疫細胞を生み出す大本である造血幹細胞において、核クロマチン構造を包括的に調節する蛋白質Satb1が、加齢とともに低下していること、ならびに老化したマウスの骨髄から分離した造血幹細胞にSatb1を発現させると、リンパ球を産生する能力が部分的に回復することを見出したと発表した。
同成果は同大大学院医学系研究科内科学講座(血液・腫瘍内科学の横田貴史 助教、同 佐藤友亮 助教(現 神戸松蔭女子学院大学人間科学部 准教授)、東邦大学医学部の近藤元就教授、米国オクラホマ医学研究財団のPaul Kincade博士、米国カリフォルニア大学バークレー校Terumi Kohwi-Shigematsu教授らによるもの。詳細は米国免疫学専門誌「Immunity」に掲載された。
生理的なリンパ球造血は、老化に伴ってその初期過程が衰微することが知られている。その原因は、造血幹細胞の質的変化が関係していると推測されており、これまで造血幹細胞に発現している遺伝子の加齢に伴う変動に関する解析が進められてきたが、免疫系の老化に関わる具体的な遺伝子は不明であった。
今回の研究では、従来造血幹細胞とされていた細胞集団から、早期のリンパ球前駆細胞(高いリンパ球産生能力を有する多能性前駆細胞ながら、造血幹細胞を定義づける長期造血再構築能はすでに失っている)を分離・培養する方法を開発。リンパ球への分化を誘導する遺伝子の同定を目標に、同細胞と造血幹細胞の発現遺伝子の比較を行ったところ、リンパ球への分化の初期段階でSatb1が重要な役割を持ち、かつその発現量が免疫系の老化に関与している可能性を見いだしたという。
今回の成果を受けて研究グループは、免疫系の調節によって高齢者の感染症やがんへの罹病率を減少させることができれば、個人の"生活の質(QOL)"のみならず社会全体の経済にも恩恵を与えることになると考えられるとしているほか、Satb1の発現誘導により、ES細胞からも効率よくリンパ球を産生させることができるようになることから、Satb1の発現調節によって、ES細胞やiPS細胞から大量の免疫細胞を試験管内で誘導できるような技術が開発できれば、免疫機能の低下をきたす疾患の病態解明のみならず、誘導細胞を用いた新しい治療方法の開発にもつながることが期待されるとコメントしている。