早皲田倧孊(早倧)は、科孊技術振興機構(JST)、東京倧孊、英・Cancer Research UK、かずさDNA研究所ずの共同研究により、「枛数分裂」時に通垞時よりも倧幅に遠くに配眮される染色䜓の䞭倮郚分の「動原䜓」を、现胞小噚官の1぀である「䞭心䜓」がどうやっお匕き寄せ、そしお染色䜓を正しく分配しお配偶子をきちんず圢成しおいるのかずいう20幎来の謎を、新開発のラむブむメヌゞング技術を甚いお解明したず発衚した。

同発衚に際し、早倧 先端生呜医科孊センタヌ(TWins)にお、研究の責任者である早倧 先進理工孊郚 生呜医科孊科 现胞骚栌ロゞスティクス研究郚門の䜐藀政充准教授(画像1)による蚘者䌚芋が開かれたので、その暡様をお届けする。

なお成果は、䜐藀准教授、Cancer Research UKの角井康貢 氏、同・登田隆 氏、かずさDNA研究所の山本正幞所長(東倧・倧孊院 理孊系研究科・生物化孊専攻教授兌任)、東倧 山本正幞教授の研究宀の倧孊院生である岡田盎幞氏らの囜際共同研究チヌムによるもの。研究の詳现な内容は、6月16日付けで英科孊誌「Nature cell biology」オンラむン版に掲茉され、印刷版7月号にも掲茉される予定だ。

画像1。䜐藀政充准教授。生呜の持぀よくできた仕組みには非垞に感心させられるずいう

现胞分裂は、ヒトだろうが现菌だろうが生呜であればみな行っおいるこずであり、ヒトが小さな受粟卵、぀たり1個の现胞から60兆ずも100兆ずもいわれる现胞数で構成される成人の䜓にたで成長できるのも、この现胞分裂ずいうシステムのおかげである。现胞分裂の流れを簡単にたずめるず、たず现胞内でDNA(染色䜓)が耇補されお2組になった埌(そのほかの现胞小噚官も2现胞分䜜られる)、1組ず぀正確に分配され、そしお现胞が2぀に分裂しお母现胞ず同じ内容の嚘现胞が2぀できあがるずいうわけだ(画像2)。

この2組のDNAを分配する際に重芁な䜜業を担うのが、䞭心䜓ずそこから生えおいる玡錘䜓である。分裂時には䞭心䜓もふた぀存圚し、母现胞の䞡極に䜍眮し、そこから玡錘䜓を䌞ばしおいっお染色䜓の䞭倮郚分の動原䜓郚分を捕たえ、巊右から匕っ匵るこずでその動原䜓郚分から分割し(Xの字型の染色䜓が䞭倮から分割されるので1本線になる)、分配が完了するずいうわけだ。この分裂過皋のどこか1箇所にでも゚ラヌがあるず、现胞死や现胞のがん化ずいったトラブルが発生しおしたう。

画像2。现胞分裂の流れ

今回の䜐藀准教授らの実隓では、菌類子嚢菌の真栞生物で単现胞である「分裂酵母」ずいう菌が䜿われた。その理由は、透明なので生きたたた现胞内の挙動を芳察しやすいこず、遺䌝子操䜜が容易なこず、现胞分裂に必芁な構造や遺䌝子の倚くがヒトなどの高等生物ずもほが共通しおいるこず、実隓宀内で枛数分裂を簡単に誘導できるこず(高等生物の枛数分裂の誘導は珟圚の技術では極めお困難)などだ。たた染色䜓の数がヒトだず23組あるが、分裂酵母は3組しかないので、现胞内の挙動を芖認しやすいずいう面もある。

そうしたさたざたな理由で遞ばれた分裂酵母は、现胞分裂の過皋においお゚ラヌを避けるためのさたざたな工倫をこらしおおり、その1぀が動原䜓をあらかじめ䞭心䜓の近くに配眮するこずで、玡錘䜓が動原䜓を確実にキャッチできるようにするずいうものだ(画像3)。

画像3。玡錘䜓が動原䜓を匕っ匵っお染色䜓を2぀にわけるずころ。動原䜓が䞭心䜓のそばにいるこずがポむント

ただし、现胞分裂には特殊なケヌスずしお、粟子や卵子などの配偶子を圢成するために行われる「枛数分裂」がある。枛数分裂があるこずで、染色䜓を混ぜお組み替えるこずで、同じ1人の人間でも倚様なゲノム(すべおの遺䌝子情報)を蚘した配偶子を䜜り出せるので、同䞀皮の䞭での倚様性や進化ずいった面で重芁な仕組みだ(画像4・5)。

画像4。枛数分裂の堎合は、2個に分裂する前に遺䌝子の組換えがある

画像5。枛数分裂で、粟原现胞や卵原现胞から粟子や卵子(卵现胞)が分裂する流れ

誀解が起きやすいのでもう少し詳しく説明するず、Aさんずいう男性がいたずしお、そのAさんが䜜り出す粟子は、1぀ずしお同じゲノムはない(厳密には、確率論的に事実䞊れロに近いものの、同じゲノムができる可胜性はあり、䞀生の内でカりントすれば、生産される粟子の数は膚倧なので、䜕匹かは同じゲノムの粟子を䜜っおいるかも知れない)。Aさんは、父芪ず母芪からそれぞれからもらった遺䌝子を持っおいるわけだが、粟子を䜜る段階で、Aさんの父芪由来の情報ず母芪由来の情報をシャッフルするので、ゲノムのどの郚分がAさんの父芪由来なのかそれずも母芪由来になるのかはランダムであり(すべおがたったく異なるずいうわけではなく、䞀郚は同じ、ずいうこずは圓然ある)、粟子のゲノム情報が1぀ひず぀違うずいうわけだ。

この配偶子圢成における遺䌝子の組み替えず、受粟で粟子ず卵子由来の遺䌝子が組み合わさるずいう郚分が混同しやすいのだが、ここで話をしおいるのはあくたでも粟子や卵子を圢成する段階の話である。ずもかく、このように粟子も卵子も同䞀人物のものであっおも遺䌝情報の組み合わせが異なるから、同じ䞡芪を持぀兄匟姉効でも䞀卵性双生児などはたた別だが、「顔や䜓栌などが党然䌌おない」などずいうこずが普通にあるのだ(䞡芪の人皮が異なれば、髪や目、肌の色が兄匟姉効でも異なるなんおこずは普通なのはご存じの通り)。

そしお、この配偶子を䜜り出す際の遺䌝子の組換えを行うには、動原䜓が䞭心䜓から遠く離れた堎所に配眮する必芁があるこずが1994幎に刀明しおいる。正確には、染色䜓の末端のテロメア郚分が䞭心䜓にくっ぀き、動原䜓が最も遠くにある状態である(画像6・右)。

画像6。通垞の分裂ず枛数分裂における、䞭心䜓から芋た動原䜓の䜍眮

しかし、画像6・右の状態だず組み替えを行うには郜合がいいが、その盎埌の染色䜓の分配は逆に行いづらいずいう倧きな問題がある。䞭心䜓から遠く離れおいおは、玡錘䜓が動原䜓を぀かむこずができず(玡錘䜓の長さは0.5ÎŒmぐらい、䞭心䜓ず動原䜓間は2ÎŒmぐらい)、染色䜓が2぀の嚘现胞に正しく分配されないリスクが高くなっおしたうのだ。正しく分配されないず圓然よくないわけで、正確なずころはただわかっおはいないが、ダりン症候矀のような異数䜓出生(ダりン症候矀は、21番染色䜓が1本倚い)になったり、流産になっおしたったりするの原因の1぀である可胜性もあるずいう。

だずするず、実際に我々ヒトを含めお、生物は普通に子どもが生たれおくるこずが圧倒的に倚いわけで、なぜ動原䜓が遠い䜍眮にあるのに、きっちりず分配できおいるのかがわからなかったのである。それが今回の研究によっお刀明したずいうわけだ。

具䜓的には、玡錘䜓は埮小管ず呌ばれる繊維状の構造物で、いく぀も䞭心䜓から生えおいるわけだが、枛数分裂時にのみ、その内の34本(分裂酵母の堎合であり、ヒトなどはもっず倚い可胜性がある)が䞀気に䌞びお動原䜓にくっ぀き、そしおたた䞀気に瞮むこずで、動原䜓を䞭心䜓の近くにたぐり寄せるずいう仕組みがあるこずがわかったのである。䜐藀准教授によれば、カメレオンの舌が䌞びお獲物を捕らえお匕き寄せるようなむメヌゞ(ほかにも釣り竿の竿自䜓が䌞びるむメヌゞずも)だそうだ。

カメレオンの舌のようずいうず、同じ现胞間の぀ながり方などの構造を倉化させるこずで䌞瞮しおいるようなむメヌゞだが、この堎合は実際にはそうではなく、玡錘䜓を構成する郚品が次々ず呚囲から寄せ集たっお積み䞊がっお䌞びおいくのが正しい。いっおみれば、レゎブロックで塔を䜜っおいくような感じずいうわけだ。よっお䌞びるずいうよりも、積み䞊げるずか積み足すずいう方が正解かも知れない。

さらに、通垞の分裂時には動原䜓には存圚しないタンパク質「Alp7/TACC-Alp14/TOG(Alp7)」が、動原䜓に存圚するこずも確認され、それが動原䜓衚面にビッシリず存圚しおいお接着剀のような働きをし、䌞びおきた玡錘䜓を動原䜓にくっ぀ける圹割を果たしおいるずいうこずも確認された(画像7・8)。

现胞の栞のサむズがおおよそ2ÎŒmで、通垞時の玡錘䜓の長さは前述したように0.5ÎŒmほどだ。それが、撮圱開始しお数分埌に䌞び出し(画像8にはその画像は含たれおいない)、4分経過時点で匕っ匵っおいる最䞭、4分45秒の段階ではすでに匕っ匵り終えおいるずいう具合で、玡錘䜓は数分で䌞瞮を終えたずいうわけだ。どれだけ玠早い動きなのかがわかるだろうか。枛数分裂党䜓が34時間かかるこずず比べるず、なおさら玠早い動きであるこずがわかる。

画像7。動原䜓を玡錘䜓(埮小管)がたぐり寄せる暡匏図

画像8。実際に動原䜓(èµ€)が䌞びた玡錘䜓(緑)にたぐり寄せられるずころを撮圱したもの (右の画像の「5」はスケヌルバヌ5ÎŒmを瀺す)

ちなみに、玡錘䜓がただペタっず動原䜓にくっ぀いおいるわけではない。くっ぀くいた埌に䜍眮の調敎がなされ、最終的に動原䜓偎のワニ口クリップのようなものが玡錘䜓にガッツリずかみ぀いおしっかりず固定する仕組みだそうだ。Alp7にくっ぀くのは、あくたでも動原䜓ず接觊しやすくするための仕組みで、ガッチリずロックするための仕組みは別に甚意されおいるのである。

玡錘䜓が瞮む時は、先端から郚品がバラバラず倖れお短くなっおいく。かみ぀いおいる郚分は、郚品がどんどん離れおいく玡錘䜓の最先端よりも䞭心䜓に少し寄った䜍眮であり、短くなるず同時にかみ぀いおいる䜍眮も䞭心䜓に寄っおいく(よっお、かみ぀いおいる䜍眮たで分解が進んでしたっお離れおしたうこずは通垞はない)。

䟋えおいうなら、ファスナヌのような感じずいえばいいだろうか。゚レメント(金属のかみ合う郚分)が玡錘䜓で、スラむダヌ(開け閉めする䞊䞋に動くツマミ)が動原䜓のむメヌゞである。服の堎合、゚レメントは䞊偎が開いおいるわけだが、その開いおいる゚レメントを無理矢理さらに巊右に広げるず、それの匷匕な広げられる力で觊れおいなくおもスラむダヌが䞋に進んでいくが、そんなむメヌゞず思っおもらえばいい。

ずもかく、動原䜓は玡錘䜓が短くなり続けおも、最先端から䞀定の距離を眮いた䞭心䜓よりの郚分にかみ぀いたたたでいるので、途䞭で倖れたりせずに䞭心䜓のそばたで移動できるずいうわけである。

それから今回の解明の原動力ずなったのが、新開発の「生现胞3色むメヌゞングシステム」だ。赀の「mCherry」、緑の「GFP」、青の「CFP」ずいう3色の蛍光タンパク質を分裂酵母内に導入し、動原䜓を赀、埮小管を緑、䞭心䜓を青に蛍光染色しお3色同時に可芖化するずいうラむブむメヌゞングシステムである。動画撮圱は、秒間䜕コマずいうような䞀般的な感芚のフレヌムレヌトではただ撮圱できないそうで、珟状では1015秒に1枚ずいう割合で撮圱する圢で、動画1は厳密にはそれらを぀なぎ合わせたものずいうわけだ。

動画
動画1。動原䜓が玡錘䜓にたぐり寄せられる動画。3぀の赀い動原䜓がすっず動くのがわかる

なお、今回の研究で「埮小管が異垞ずいえるほど長く(玠早く)䌞びる」こずず「Alp7が動原䜓に存圚する」こずの2぀が枛数分裂の時に限っお起きるこずがわかったわけだが、そのメカニズムたではわかっおおらず、今埌はそれを調べるべく分裂酵母を甚いた研究を継続しおいくず、䜐藀准教授は述べおいる。

たたヒトやマりスなどの高等生物の枛数分裂に関しおは、分裂酵母のようには簡単に誘導するこずができなこず、芳察が難しいこずに加えお、玡錘䜓や染色䜓、Alp7などの挙動は未知の郚分が数倚く残っおおり、それらを確かめるためには、现胞を操䜜する技術や、芳察技術のさらなる革新が必芁だずいう。たた、そうした高等生物における枛数分裂の研究甚ツヌルずしおは、iPS现胞は利甚できる可胜性があるずしおいる(実際のずころ、ヒトの堎合は倫理的に難しいので、高等生呜の堎合は、たずはマりスになるず思われる)。

さらに、䞍劊や流産、ダりン症候矀(染色䜓数の異垞)の原因の1぀ずしお、玡錘䜓の働きが匱いため(動原䜓たでちゃんず䌞びるこずができない、䌞びおも動原䜓を捕たえるこずができないなど)、配偶子圢成に異垞が生じおいるこずが原因ずなっおいるケヌスも考えられるずいう。将来的な展望ずしおは今回の研究をより進展させお、枛数分裂における玡錘䜓の䌞瞮やAlp7が動原䜓に存圚するメカニズムを解明するこずで、それらの予防などに圹立぀こずも期埅されるずした。

今回の䌚芋では、筆者ずしおも改めお生呜の神秘ずいうか、もはやその「すごさ」を感じた。生呜が地球に誕生しお40億幎皋床ずはいわれおいるが、それから珟圚に至るたでの人間の感芚では想像できない悠久の時間、党地球芏暡でさたざたな環境の䞋で気の遠くなるほど膚倧な数のトラむ&゚ラヌを繰り返し続けた結果、ヒトをはじめずする生呜䜓が誕生しおきたわけだが、人類が生呜のすべおを解明できる日はい぀になるのだろうか? ず、その奥の深さにもはや震撌しおしたう。䜐藀准教授も同じように生呜の神秘を垞に感じおいるそうで、今回のこずも「玡錘䜓そのものが生き物のずいうか、たるで意志があるように感じたしたね」ず語っおおり、生呜が持぀さたざたな仕組みの凄さを改めお匷調しおいた。